同じライターによるこちらの番外編もオススメ:自分が書いた「就職ランキング」だが、Googleが25位って。おかしくない?
最新の東大京大ランキングはこちら
「採用マーケットの中で、今注目している企業はどこか?」
と聞かれたら、私は間違いなく「P&G」と即答するだろう。というのも今、かつての王者P&Gが、採用マーケットにおける存在感を下げつつあるのだ。
まずは、以下のランキングを見ていただきたい。
調査主体:株式会社ワンキャリア
調査対象:東京大学・京都大学、または同大学院に所属し、2019年度卒予定のONE CAREER会員1,400 名のうち無作為抽出した450名
集計時期:2017年5月22日時点
作成方法:企業別のお気に入り登録数(複数選択可能)を元に作成
上記の表は、東京大学・京都大学の現役就活生(19卒)のお気に入り企業ランキングだ。
「就職人気ランキング*」だと思っていただいて相違はない。
*ONE CAREERは東大生・京大生の実働就活生(何らかの就活サービスに登録・利用している学生)の50%以上が登録するため、「上位校のマーケット全体の動きを、ほぼ正確に表している」と思っていただいて問題ない
2019年卒、P&Gは2位から17位へ急落。ユニリーバも11位から30位へ
この表だけ見ると、P&Gは17位であり、未だに上位に食い込んでいるともいえる。だが問題は「下げ幅」だ。
以下の表を見てほしい。
19卒:2017年5月時点の19卒のお気に入り登録数を元に作成
18卒:2016年5月時点の18卒のお気に入り登録数を元に作成(上位15社)
上表は、1年前の同じランキングで、TOP15社入っていた企業のうち(18卒)下がり幅が大きい企業の上位5社だ。つまり、「ランキングが落ちた企業」だ。1位の電通は過労死の事件があったため納得いくが、ここにP&Gとユニリーバがほぼ同じレベルで並んでいる。
「確かに……、消費財メーカー自体の人気がなくなっているからな」
とあなたは思うかもしれない。しかし、これは部分的には正しいが、全体を表していない。なぜなら、同じ業界に位置する「ネスレ」は、反対に51位から24位に上がっているのだ。もしも、消費財メーカー自体の人気が落ちているだけが原因であれば、このズレを論理的に説明できない。P&G「単体」としての採用ブランド力が低下しているのは、間違いなく事実なのだ。
調査で見えてきた、P&Gの弱点:「成長の自己目的化」
確かに「定量データ」はしばしば嘘をつく。
だが、P&Gブランドの低下は、残念ながら定性データからも証明されている。
そう語る根拠はこうだ。去年度、我々は「内定辞退者調査」と称して、人気企業を『辞退』したトップ学生50名にロングインタビューを行った。インタビュー時間は延べ100時間を越え、報告書は300枚にも及んだが、その中に印象的な発言があった。
「P&Gは、俺が俺が系しかいない。社会に対して貢献する気がなくて、数字を上げることと自分の成長しか見ていない。とある社員が『〇〇〇でも売れます』って言っていて完全にひいた。絶対に行きたくなかった」(P&G内定辞退者)
「(P&Gは)自分の成長を大事にしている。それ自体は良いが、しかし宗教的なまでに成長を大事にしすぎていて、社会への貢献といった大義を忘れてしまっている印象」(P&G内定辞退者)
つまり、一言でいうと「自己成長が目的化している人が行く」というブランドイメージができているということだ。そして彼ら・彼女たちは、それに強いアレルギー反応を示しているのだ。ちなみに、この傾向は「内定者」に限らずに、ほかの優秀学生からも見られるものだ。
論点:「採用ブランドはいつ、どうやって、崩壊していくのか?」
そもそも、ブランドの崩壊は、ボディーブローのように進んでいくもので、実は、P&Gのブランド異変は、数年前から始まっていた。その異変とは、シンプルに「優秀な学生から、P&Gの名前を聞かなくなった」ということだ。つまり、彼らのスコープにそもそも入らなくなってきていたのだ。
そして、そのボディーブローは今になってじわじわと数字で現れ始めてきている。
一般的に、採用ブランドの衰退は、まず「イベントに参加する学生の顔つき」に現れる。そして次に、内定者の属性(大学やサークルなど)が変わりはじめ、次は1つ下の就活生から「内定者の質が低い」「なぜ、あの先輩があの会社に受かったのかわからない」という声がではじめる。そして、その症状が本格的に深刻化するころにはブランドが崩れ始め、「数字」にも反映されてくる。
(参考)採用ブランドの崩壊まで6STEP
1. トップの学生が「事業の成長性」の観点などから、その企業を受けなくなる
2. イベントに参加する学生の顔つきが変わりはじめる
(=参加する大学内訳に変化はないが、上澄みの層が受けなくなる)
3. 内定者の属性が少しだけ変化する
4. 就活生の中で「内定者の質が低い」と口コミが広まる
5. 2〜4までのプロセスが数回繰り返される
(=社内では離職率が上がり、人事が採用人数を追い始める)
6. ブランドランキングなどで、数字に変化が出る
採用市場は「Brand is king」であり、これを今から取り返すことは容易ではない。まさに採用マーケットにおけるP&Gは今が正念場であり、「Consumer is boss」を実施できなければ、ブランド力は今後も低下し続けるのは間違いない。
— P&Gブランドの衰退の兆し
これが「今年のランキング」の特徴の1つ目だ。
18卒から19卒で大きく順位を伸ばしたPwC
さて、反対に、この1年で採用ランキングを急激に上げた企業を見てみよう。
19卒:2017年5月時点の19卒のお気に入り登録数を元に作成
18卒:2016年5月時点の18卒のお気に入り登録数を元に作成
*2016年5月時点で100位以内の企業(18卒)のうち、2017年5月のランキング上昇5社(19卒)
1位は、PwCコンサルティング・PwCアドバイザリーで前年より60位近く数字を上げている。この理由は2つあり、まずは(1)採用人数の拡大による接触機会の増加だろう。PwCは18年卒から「採用数を急激に増やしている」と言われており、内定者によると「前年比で2〜5倍増えているのではないか」という声まである。
だが、これだけでは、PwCの好調を完全には説明しづらい。
というのも、採用人数の増加であれば、総合コンサルである、デロイトトーマツコンサルティングもここ直近で採用人数を急激に増やしているからだ。つまり、採用人数の増加だけでは「なぜ、PwCだけ急激に伸びたのか?」をうまく説明できない。そうするとシンプルに(2)「PwCの採用活動がうまくいっている」と考える必要がある。これが2つ目だ。
18卒採用期間中に、最もランキングを上げた企業:JT
そもそも「採用力」は2つの要素から成り立つ。
1つは、「企業名のブランド」だ。これは企業のネームバリューとしての採用力を指し、採用活動が始まった時点での、人気度に現れる。もう1つは、地道な採用活動から成り立つ「採用活動力」だ。これは、どれだけその年の人事が頑張ったかによるもので、数字としては「順位の変動」に現れる。
そして、人事の実力は、後者にこそシャープに現れる。
分かりやすいアナロジーを使って説明すると「人気企業の人事として、優秀な人を採るのは、バカでもできる(単年度なら)」が、「無名ベンチャーの人事で、優秀な人を採るのは極めて難しい」ということだ。
(もちろん、これはアナロジーであり実態とは異なる可能性がある)
では、この「採用活動力」で、上位にある企業はどこだろうか?
18卒のお気に入り登録数を元に作成
2016年5月時点で100位以内の企業(18卒)のうち、2017年5月時点のランキング上昇上位5社(18卒)
第1位は、JT(日本たばこ産業)だ。
JTは、去年の5月、つまり、採用活動が始まった時点(18卒)では、76位だったが、今は21位であり、採用活動中に55もランクを上げている。最大の上げ幅だ。
そして、この感覚は実感値に極めて近い。実際に我々が行った内定辞退者調査でも、「受けてみたら良い会社だった」という声はよく聞く。現にとある優秀な学生(外資系戦略コンサルと総合商社から複数内定)の彼はこういった。
「僕が一番尊敬する社会人の方も、新卒で受けるなら、JTは経営企画室もあるし、受けてみたいと言っていた。いい会社という印象がある」
「最初から人気が高い(76位)」のに加えて、「採用活動中に人気が高まった」ということは、地道な採用活動の成果が出ているといえるだろう。
マッキンゼーとBCG……戦略コンサルBIG3はどうなっている?
もう一つ、ランキング全体を見ていて、顕著なのは「外資コンサル」の圧倒的な人気と、三菱商事の強さだ。相変わらずマッキンゼーとBCGの人気が高いし、三菱商事は同じ総合商社の伊藤忠に1.4倍近い差を付けている。
加えて外資コンサルの中で、注目すべきは「ベイン」と「A.T.カーニー」の対決だろう。
去年はウェブプロモーションの成功によって夏時点では、ベインは、マッキンゼー・BCGを抜くほど好調であったが、今年はA.T.カーニーの方が一枚上手のようだ。ベインは例年、採用時期が早く、夏頃に人気が高まる傾向にあるため、ここからの巻き返しが期待される。
要するに、グローバルで見るとベインが持つ「BIG3」の座を、A.T.カーニーが奪取できるのかが注目だろう。
マッキンゼーとBCGを「辞退した人」は、どこの企業に進んだのか?
もう少し外資コンサルを深掘りしたい。
去年度、マッキンゼーまたはBCGを「内定辞退」した学生は、我々が知っている範囲でも5名いる。我々が把握していない分も含めると10名弱だと推測されるが、彼らの進路先はそれぞれ、起業、三菱商事、ゴールドマン・サックス、DeNA、官僚などだ。
三菱商事やゴールドマン・サックスは、企業ブランドが強いため驚きはないが、この中で、注目すべきはやはりDeNAだろう。
実はDeNAはそもそも、「外資コンサル内定者のひっくり返し」を比較的得意としていて、この話は去年に限った話ではない。DeNAが外コンの内定をひっくり返した話は、ここ数年で学生から何度も聞いたことがある。
従って、人事担当者は、内定者がDeNAと接触する際は、特段のフォローをしたほうが良いだろう。ちなみに具体的に、優秀な学生に対する接触の方法・ブランディング戦略などはワンキャリアが調査している「内定辞退者調査」をぜひ、ご参照いただければと思う。
※(採用責任者用)問い合わせはこちら
最後に:採用マーケットには、「データ」がない
さて、最後にこういった「就職ランキング」を見る際に、注意してほしいことがある。それは
新卒メディアは、「企業の悪いこと」を書けない
ということだ。この理由は、要は「お金」の問題であり、新卒メディアの会社は企業側からお金をもらっているため、企業の悪いことは普通書けないのだ。書いたら、営業担当を通じて怒られる。(現に、私はよく怒られている)
だが、もっと本質的な問題でいうと、「採用マーケットには、データとジャーナリズムがないこと」にある。今の採用マーケットは、WEBマイナス2.0のような状態で、数字でロジカルに採用が語られることは極めて少なく、「なんとなく」で語られることがほとんどだ。結果的にこのマーケットには「嘘の情報」が溢れている。
だが、市場には必ず「公正性」が必要だ。
資本市場がワークする前提に「監査法人」があるのと同様に、新卒マーケットにも公平性を担保するシステムが必要なのだ。今のシステムは、仮に、企業が採用活動において、不祥事を行ったとしてもそれを報じ、監視するシステムがない。
結果的に、市場は「不正をしてでも、強いものが勝ち続ける状態」になる。そして最後に損を被るのは、「求職者」であり、儲かるのは「人材会社」ということになる。
ワンキャリアはデータやファクトに基づく、意見を今後も発していく。なぜなら、それが日本の採用マーケットにおける「健全な発展」につながると信じているからだ。
最後となるが、個人的には、外資系コンサルティングファームと総合商社の今の異常なまでの人気は危険信号だ。別記事でも書いた通り、「今流行っている企業」はすでにバブルに近い可能性があり、本当に面白い仕事がすでにない可能性もある。株と同じだ。
ランキングは、あくまでランキングだという気持ちをもって、就職活動に挑んでいってほしいと思う。
・「内定辞退者調査」や「採用コンサル」への問い合わせはこちら:人事・広報・経営者の方専用お問い合わせフォーム
──北野唯我(KEN)のtwitterはこちら:@yuigak
──北野唯我(KEN)のブログはこちら:新卒採用メディア執行役員のブログ