ワンキャリアが総力をかけて行う「WORLD5特集」。
世界経済フォーラムに認定されたYGLの5名と、コーディネーター1名が登場します。
本日は、昨日に続いてコルペニクCEOの中村俊裕氏のインタビューをお届けします。国連・マッキンゼーという経歴を持つ中村氏に「ファーストキャリアとしての国連の魅力」「今国連に入ることの意義」について伺った。
ーー前編「官最高峰の国連を経て、彼がコペルニクを創立した理由」はこちら
世間的に見ると、誰もが羨むようなキャリアにあった「挫折」
中村 俊裕:
コペルニク共同創設者兼CEO。京都大学法学部、ロンドン大学経済学院(LSE)比較政治学修士卒。国連、マッキンゼーに勤務。10年勤めた国連では、東ティモール、インドネシア、シエラレオネ、アメリカ、スイス等を支援。2012年に、世界経済会議(ダボス会議)のYoung Global Leadersに選出。著書『世界を巻き込む』
KEN:前半はコペルニクのビジネスモデルについて伺いました。後半は「キャリア」に関して聞かせてください。
中村さんは、世間的に見ると誰しもが羨むような、誤解を恐れずにいえば「恵まれたキャリア」を歩まれていると思うのですが、そんな中村さんでも挫折したことはあったのでしょうか?
中村:いや、マッキンゼーにいるときにはかなり苦労しましたね。相当叩かれました(笑)。それまでは割と自分に自信あったのですが、マッキンゼーで働いて、自信がないまま黙々と仕事をしていく日々が続きました(笑)。「あれ自分何もできないな」といったように。でも自分が何かに否定される経験は大切なのだと、あの経験で気付くことができました。何かに否定されて「自分よりもこんなに優秀なやつがいるのか」と痛感する経験は絶対に大切だと思うんですよね。あの経験があったからより謙虚になれて今があるのだと思います。
コンサルティングファームでの経験は、公共セクターでも役に立つか?
KEN:なんだか、安心しました(笑)。中村さんは、コンサルティングファームでの経験が公共セクターでも、役に立ったと思うことはありますか?
中村:役に立っています。一番役に立っているのは企業とパートナーシップを組む際に、相手のツボを意識しやすいという点でしょうか。「こういったことを、企業は一番気にしているだろう」といったように。やはり、公共セクターは「どうやって資金を集めるか」という視点が重要なので、コンサルティング会社で得たものの中でも、企業の観点を理解したうえでパートナーシップを提案できることが役に立っていると感じますね。あとは、「謙虚さ」でしょうか(笑)。
21歳の子どもに「国連」をファーストキャリアとしてオススメするか?
KEN:謙虚さは大事なのですね(笑)。
では、今もしも、中村さんに21歳の子どもがいたら、「国連をファーストキャリアとして歩むこと」をオススメしますか?
中村:私はまず国連で働くのは非常に良い進路だと思っています。「援助」というものがどのようなロジックで動いているのかを机上の論理でなく体感として学ぶことができるからです。若くても、途上国政府のお偉いさんと一緒に仕事をできるという醍醐味もあります。
また、国連の特色をもう1つ挙げるとすれば「自由度が高いフィールド」です。官僚的というイメージがあるかと思いますが、特に途上国のフィールドで勤務する場合、大きな権限を任されることが多いので、自発的に動ける人には適した環境が整っていると思います。逆に上から何かを指示されないと動けない人には向いていないかなと思います。
KEN:意外です。国連って「自由度が高いフィールド」なんですね。
「でも、今のタイミングで国連に入るって、どうなの?」by KEN
KEN:国連というキャリアも面白そうだなと思う一方で、私は、「このタイミングで国連に入るのってどうなの?」とも思います。というのも、世論からの国連へのイメージも変わってきた印象があるからです。
具体的には、第二次世界大戦後に国連ができて、「世界平和」的なものを目的に運営が始まって、設立当時は「素晴らしい!」と思われていたと推測しますが、半世紀近くが経って「本当に国連って意味あるの? いいことしてくれるの?」と世論が変わってきている感覚があります。ストレートにいうと、「中村さん。今、このタイミングで国連に入るって、どうなの?」ということです。
中村:確かに、今、国連は大事な時期にあると思います。昔から、国連の成果に関して厳しい意見を持つ人はいたんですが、今はさらに厳しい目を向ける人が増えているような感覚があります。昔と比べて「国連、ちゃんとしてくれんの」みたいな圧力が強くなったように感じます。お金を出す側の国の経済状況が停滞すると、必然的に目は厳しくなっていきますよね。今はちょうど変革の時期かもしれませんね。
国連への「期待値を下げること」も必要
KEN:その際大事なのは、いわゆる「成功事例の横展開」だと感じます。つまり「国連はこれまでもXXという問題を解決してきたから、今後もXXというフィールドでバリューを出せる」というような。その成功事例にできる、国連のアクションによって状況が改善した国ってどこだと言われているのでしょうか。
中村:国によって違いますが、ODAって、援助を受ける国のGDPと比べると、数%にも満たないレベルということが多いんですよ。だから国連の支援によって国の根本が変わるかというとそれは難しい話なんです。その点では、国連に対する期待値を下げることも重要だと考えています。
むしろ「国単位」というより個別の現象で見た方が成功事例として紹介できる思います。例えばエボラ出血熱の対応では、支援を受けている国の政府・人々の大活躍もあった上でですが、援助機関は大きな貢献をしたのではないでしょうか。あるいは、私も関わったスマトラ沖地震の支援では、津波から5年以内に津波前の主要なインディケーター(指標)を全部超えたんです。子供の進学率とか、3歳未満の子供の死亡率とか。あれを見ると国際組織や援助の仕事って価値があるなと思います。
KEN:国という単位ではなく、「社会問題」という単位ではバリューを出す余地があるということですね。
コフィー・アナンという、偉大なリーダーの姿
KEN:論点を変えます。ビジネス・パブリック・ソーシャルの世界を見てきた中村さんが思う、理想のリーダー像はどのようなものなのですか。
中村:私が考えるリーダー像は「戦略的に組織の方向性を打ち出し、前進させられる。かつ、なぜその方向なのかを説得できる人間」ですね。個人的に一緒に仕事をしたことはありませんが、理想のリーダー像はやはり国連のときのボスであったコフィー・アナン*さんでしょうか。国連という組織では、生来的に国同士のさまざまな利害関係を調整する必要が多いのですが、そんな難しい状況の中でも、戦略的にしかもクールに行動指針を立てて組織を引っ張る姿に感銘を受けていました。
*コフィー・アナン:第7代国際連合事務総長。国連事務総長在任中の2001年にノーベル平和賞を受賞した
「中村さん。もし、日本の内閣総理大臣なら、何します?」
KEN:私はよく「自分が内閣総理大臣ならなにするかな?」と妄想するのですが、もし中村さんが、日本の内閣総理大臣だったら何をしますか。
中村:日本の一番の弱みは、強みの裏返しで、国の同一性が高いところだと思うんですよね。ただ、少子化や国境を越えた人・モノ・カネの流れの中で国の活力を保っていくには、今までの強みである同一性をやみくもに保つのではなく、逆に外から人を入れて、多様性を高くしていかないとダメだと思います。経済的にも、世界での立場的にも。いいところは残しつつ、異文化理解とか、言語の問題とかも乗り越えて、隣にいろんな宗教、文化の人がいる状態までもっていく方向に舵を切る必要があるのではないでしょうか。
KEN:なるほど。この質問にも通じると思うのですが、以前、全世界からリーダーが集まる「世界経済フォーラムの場」で、「日本」という単語は恐ろしいほど出てこなかったという話を聞きました。中村さんは国連での経験も踏まえて、日本のプレゼンスは下がっていると感じていますか。
中村:昔から国際会議などにおいては、日本人のプレゼンスは実はあまりないのですが、でもそれは日本人が国際社会で活躍できないということではありません。例えば国連時代、日本人がプロジェクトに入るとそのプロジェクトがしっかり回るということを何度も経験しました。日本の人は往々にして真面目じゃないですか。いいところもいっぱいあると思いますよ。
最先端の概念「コレクティブインパクト」で世界を変える
KEN:日本人としては、勇気が持てる話ですね。
私もこれまでもいろんなフィールドのリーダーの方と話してきたのですが、公共セクターの最終的なゴールは「無くなること」であり、そこに難しさがあると思います。社会的課題をなくすことが目的なので、それを実現したらそのNPOやNGOは存在している必要がなくなる。このような中にあって、コペルニクは最終的なゴールをどこに設定していますか。
中村:私は以前、収入やスタッフ数を多くして、プロジェクトを増やす、つまり自分たちを大きくすることでインパクトを出していくことが重要だと思っていました。しかし最近はそうは思っていません。過去数年の間に僕らのやっていることを真似る団体も多く出てきたんですよね。
これは、実はいいことで、自分たちが目指していることをほかの団体が一緒になってやってくれることをめざす方向性にシフトしているんですよ。「コレクティブインパクト」という言葉があるように、同じことをやっている人が多ければ多いほどこの公共セクターって効果が高くなるんですよね。いかにみんなを巻き込むのかが重要なんです。だから我々はみんなにこういう支援をしたら、これだけ結果が出るんだよというデータを共有することで、「こっちじゃないのか」と方向性を示したいなと。
KEN:面白い。先駆者としてデータを示し、集合的な力(コレクティブインパクト)で、世の中を巻き込んでいくわけですね。
自分の価値観のようなものを全うしてほしい
KEN:最後の質問ですが、これから就活を始める学生に向けて一言お願いします。
中村:結局、人は生まれてから死ぬまでの、その空白の埋め方をどうするかという問題だと思うんですよね。その際に大事なのは、自分の価値観のようなものを全うすることだと私は感じます。好きなことはフットワーク軽くやる。そうすればいろんなことが開けていくと思います。応援しています。
KEN:貴重な時間を頂き、ありがとうございました。
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