ワンキャリアが総力をかけて行う「WORLD5特集」。
世界経済フォーラムに認定されたYGLの5名と、コーディネーター1名が登場します。
今回ワンキャリアは、中村俊裕氏にインタビューを行いました。国連・マッキンゼーを経て、コルペニクを創設した中村氏と、ワンキャリ編集長KENが「国連で働く面白さ」や「マーケティング論」について語った。
支援のビジネスに「ビジネス観点」を取り入れた、革命児・コペルニク
中村 俊裕:
コペルニク共同創設者兼CEO。京都大学法学部、ロンドン大学経済学院(LSE)比較政治学修士卒。国連、マッキンゼーに勤務。10年勤めた国連では、東ティモール、インドネシア、シエラレオネ、アメリカ、スイス等を支援。2012年に、世界経済会議(ダボス会議)のYoung Global Leadersに選出。著書『世界を巻き込む』
KEN:中村さんは国連・マッキンゼーを経てコペルニクを創立されています。
コペルニクは、一言でいうと「先進国と途上国をマッチングし、革新的なテクノロジーを届けるプラットフォーム」だと思いますが、その面白さは手法です。特に、支援の世界に、データを持ち込んだ点は革新的であったと思います。まずはこの「データ化」についてお話を伺ってもいいでしょうか。
中村:支援ビジネスには長らく、「効果まで定量的に測る」という社会学的な観点がなかったと思います。いや、あったとしても、やる余裕がなかった。これに対して「効果まで定量化した点」が、我々の最大の特徴だと思います。
分かりやすい例でいうと、例えば仮に、ソーラーライトを1,000個途上国に導入したとしますよね。そうすると、これまでは「ソーラーライトを1,000個導入した」という事実しか見ていなかった。しかし大事なのは「導入すること」自体ではないですよね。大事なのは、ソーラーライトを導入することで人々の生活がどう変わるか、です。この効果まで定量的に追おうというのが、コペルニクが導入したことです。
KEN:仰る通りです。具体的に人々の生活はどう変わるのでしょうか?
中村:一番大きい変化は、灯油に費やすお金が減ることです。具体的には世帯支出の10~20%ほど削減できます。それに続いて「子どもの勉強時間」と「お母さんの内職の時間」が増えます。彼らは灯油ランプを使っていますから、夜になると光が十分ではなく、勉強したくてもできなかった。でも、ソーラーライトを導入することで夜でも勉強できるようになる。
KEN:現地の人々に与えたインパクトまで、データで追いかけるということですね。「可処分所得がX円分増えた」とか「勉強する時間が✕時間伸びた」という。
中村:まさにそういうことです。
人工知能・IoTの時代に、なぜあえて「ローテクノロジー」なのか?
KEN:次に、御社のマーケティング戦略で面白いのは、あえて「ローテクノロジー」の製品を、あえて「有償」で提供している点です。なぜこの時代に「ローテクノロジー」なのでしょうか。
中村:まず、ローテクノロジーである理由は、単純に、それが「適正な技術」だからです。例えば、KENさんが途上国に「飲める水」を提供したいと思ったとします。そのとき、日本で使われるような電力を必要とし、フィルターも高価な高品質なウォーターサーバーを送りますか?
それよりも、丈夫で頑丈で安価な製品を提供したい、そっちの方が現地の人に求められていると感じませんか?
KEN:確かに、日本で使うようなウォーターサーバーは、高価で、むしろ「邪魔」になる可能性があると思います。
中村:その通りです。これは「Appropriate Technology(適正技術)」と呼ばれているのですが、テクノロジーは高性能・多機能だからいいわけではなく、その地域や環境に合わせた「適正な技術」であるから「良いテクノロジー」なわけです。
お金を介在させることで、「本当に求めている人」とサービスをマッチングできる
KEN:面白い。ガラケーがスマホに負けた理由と同じですね。
「適正技術」という考えは、ビジネスの世界でも活用できそうです。2つ目の「有償」についてはどうでしょう?
中村:サービスを有償にした理由は、支援を「買ってもらう」ことで「サービスを最適に分配できる」と考えたからです。無償で支援を提供すると、「おっ無料でもらえるならもらっておこう」みたいに、本当は必要ない人にもそのサービスが行き渡ってしまいます。
もちろん地域によるのですが、実際の現地の人はみんなお芋を買ったりお塩やタバコを買ったりしているわけですよね。そういう場合には、お金を介在させることでその支援を本当に求めている人とサービスをマッチングさせることができると考えたのです。
KEN:これは説得力があります。ボランティアは一見すると、無償で行うのが「善」のように見えても長期で見ると「有償の方がいい」ことが多々あるからです。
というのも、私が以前支援活動していた際に、有償でボランティアをしている方にお話を聞く機会がありました。彼らは口々に「有償であるからこそ、支援される側は自分の本当の意思通りの支援を要求することができる。だから支援は有償であるべきだ」と言ったりするんですよね。それを踏まえるとコペルニクのサービスも「有償」にしている方が、対等な関係でやりとりができますよね。
KEN(聞き手):
新卒で博報堂経営企画局・グループ経理財務局にて中期経営計画推進・M&A・組織改変業務を経験。米国、台湾への留学を経て、ボストン コンサルティング グループで勤務。その後、ONE CAREERにジョインし、執行役員CMOに就任。一方で、23歳の頃から日本シナリオ作家協会にて「ストロベリーナイト」「トリック」「恋空」等を手がけたプロの脚本家に従事。『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『早期内定のトリセツ(日本経済新聞社/寄稿)』など
中村:そうです。コペルニクが最終的に目指す「自立」ということを考えたとき、有償である方が目的に一致していると思います。もちろん、その分、価格設定(プライシング)はとても精緻にやる必要があります。高すぎる金額だと、それは結局「営利団体と同じサービス」になってしまうので。
最強のマーケティング手法は、「現地の経済基盤に乗せること」
KEN:御社のマーケティング戦略で、もう一つ気になるのが、製品を届けるのに「第三者を使う仕組み」です。コペルニクは、製品を直接届けるのではなく、NGOや地域の「代理店」を通されています。普通は、現地の人に直接支援を届けることが多いのに、なぜ、ある種の「代理店方式」を採っているのですか?
中村:仰る通り、我々のテクノロジーの販売経路は、地域の人を採用してその人達を通して販売しています。それは、見ず知らずの僕みたいな人が売るよりも、その地域でよく知られた「小分けの砂糖やシャンプーを売っている、店のおばちゃん」に売っていただく方がはるかに商品は地域に根付いていくからです。この心理的な要因に加えて、ニーズの把握という意味でも「代理店方式」は適した方法です。現地の代理店はその地域に密着しているので「何が求められているのか」を一番よく知っているんですよね。
KEN:シンプルですが、真理ですね。
私が思うのは、国にしろ、組織にしろ、未発達の組織が成熟した組織に変わるためには「集団における、信頼の貯金」が必要だと思うんですね。かつてロシアが社会主義から資本主義にいきなり変革しようとしたけれど、失敗しましたよね? その理由は「資本主義に耐えうる、個人間の信頼がなかったから」だといわれています。
何が言いたいかというと、コペルニクの仕組みが「地元の経済に乗る」ということはすごくいいことで、なぜなら「集団における、信頼の貯金」を強化させるからです。
中村:仰る通り、「地域の経済に乗せること」は極めて大事です。
公共セクターでも、「金の流れ」が激変した2000年代
KEN:続いて「お金の集め方」に関しても聞かせてください。
コペルニクはクラウドファンディングでも支援金を集めていますが、これはなぜでしょう?
中村:私たちがクラウドファウンディングという手段を使っているのは、資金の使い方を比較的自由に定義できると考えたからです。
KEN:具体的には、どういうことでしょう?
中村:私が国連で働いていて思ったのが、仮に「NGO」といっても、結局は先進国政府や援助機関から補助金を貰い、その下でやっているということです。独立しているようで実はしていない。もちろん全てのNGOがそうではありませんが、結果として、多くのNGOは、お金を出している援助機関が期待する計画を実施する構造だと思うんですよ。
でも「クラウドファンディング」や、自己の事業収入で集められた資金は、流れが自由で、政府や援助機関とは別の枠組みです。なので、自分たちが考える形で支援が行えるというメリットがあります。
KEN:御社が設立された2000年代は、公共セクターにおいて「変革期」でした。
具体的には、グローバルギビング(GlobalGiving)というクラウドファンディングの団体が生まれ、『ネクスト・マーケット』が出版され、「BOPビジネス」が注目されました。つまり、ビジネスの世界からも、公共セクターにお金が流れ始める時期でもありましたね。
中村:そうですね。そして「スマトラ沖地震後の支援」で、「このお金の流れの変化は止まらない」ということを痛感しました。というのも、あの地震に対する支援額でいうと、ODAとODA以外から集まったお金はほぼ同額だったんですよね。「世界のお金の流れは変わってきているのだな」と感じました。
KEN:タイミングも良かった、と。実際にクラウドファンディングを選んでみて、難しさはありましたか?
中村:ありました。クラウドファンディングは実際にやってみるとなかなか手ごわく、実際にコペルニクに入るお金の流れは、クラウドである個人からは本当に一部で、企業や財団、そして自己収入からが大半になっています。近年は政府機関からのお金も増加してきました。
ーー後編:「今、このタイミングで国連に入るって、どうなの?」はこちら
中村氏が「キャリアとして、国連で働くのはかなり良い進路」と語るキャリア論から、「公共セクターの最終的なゴールをどこに置くのか」という話まで引き続き公共セクターに関するお話をお届けします。
「WORLD5特集」の公開スケジュール ライフネット生命社長 岩瀬大輔
・99%の人は天職に出会えていない。でも、それでもいいと思う
・パワポで世界は変わらない。彼がハーバードを経て起業した理由 宇宙飛行士 山崎直子
・地球から「8分30秒」の職場。それが宇宙
・苦しい業務も、全てが楽しい。きっと、それが「天職」
Xiborg代表/義足エンジニア 遠藤謙
・「パラリンピックは人類の未来」
・最短距離で世界一になるため、根回しなど面倒なことは不要だ
国連出身・コペルニクCEO 中村俊裕
・官最高峰の国連を経て、彼が「コペルニク」を創立した理由
・今、国連に入るってどうなんですか?就職先としての「国連のリアル」
投資銀行出身・ビズリーチCEO 南壮一郎 ・「世の中にインパクトを与える事業を創りたい」南氏の天職と理想のリーダー像に迫る ・自分のことを信じよう!就活生に贈るメッセージとは?
世界経済フォーラム出身/コーディネター 長尾俊介
・「MBAで流行ってる業界には行かないこと」就活生へメッセージ
・僕らは多分、100歳まで働くことになる