「通常の保険では救済できない海外取引のリスクから日本企業を守る」ことを使命に、国内で唯一の貿易保険事業を担う政府系の金融機関である株式会社日本貿易保険(以下、NEXI)。今回インタビューしたのは2018年に新卒入社し、現在は企画部 国際グループ長を務める藤木慶太さんです。
藤木さんは入社後、バングラデシュのガス火力発電やエジプトの風力発電など世界の大型インフラの案件に携わり、世界中の輸出信用機関が集まる国際会議にも1年目から参加。資源エネルギー庁への出向を経て、新卒7年目でポストチャレンジ制度を活用し管理職に就任。新卒入社職員の中で初、管理職の中でも圧倒的に若いマネージャーになりました。
就活時には外資系コンサルティングファームにも内定し、さまざまな選択肢がある中でNEXIの扉をたたいた藤木さんは、「NEXIでの部署異動は転職に匹敵するほど新しい挑戦ができる」と語ります。インタビューから見えてきたのは、若手も専攻分野にとらわれず幅広い業務に携われる裁量の大きさ。唯一無二の業務や環境に迫ります。
藤木 慶太(ふじき けいた)
2018年新卒入社。企画部 国際グループ長。入社後、企画室企画グループで国際関係業務を担当し、1年目から世界各国の輸出信用機関との連携や国際会議に携わる。その後、融資保険を取り扱う営業第二部で大型電力案件のプロジェクトファイナンスに従事。2022年に資源エネルギー庁へ出向し、資源外交や国際交渉の経験を積む。社内初となる新卒7年目での管理職昇進を果たし、現在は国際グループのマネジメントを通じて、チームの成果創出と「理想」の追求に取り組んでいる。
<目次>
●周りと違う仕事をしてみたかった
●入社1年目から、世界を飛び回る日々
●エネルギー安定調達の最前線で担った重責
●風通しを良くし、何でも聞ける/言える関係に
●目指すのは、仲間の「理想」も一緒に背負える管理職
周りと違う仕事をしてみたかった
──大学院を卒業されていますが、大学院では何を研究されていたのでしょうか?
藤木:労働経済学です。貧しい人はずっと貧しいままなのか? 富める人はずっと富んだままなのか? 社会でどのぐらい自分の努力で成り上がっていけるのか? 大学院ではそういった社会の実態を研究していました。
──NEXIに入社した理由を教えてください。
藤木:業務のバラエティがあると感じたことと、唯一無二の業務内容にひかれたからです。もともと外資系コンサルティングファームの内定をもらっていたのですが、「日系の会社を見ないのはもったいないし、唯一無二の仕事がしたい」と思い、就活ではいろいろな会社の説明会に参加していました。
学生時代に留学した上でさらに大学院にも通っていたので、大学の同期は私より早く大手商社や銀行、官公庁、コンサルなどに就職していました。ただ、「みんなと同じようなところに就職するのが果たして面白いのか。周りと違う仕事をしてみたい」と思っていたことも事実です。研究者になる道も考えましたが、やはり実業の世界で活躍したい思いが強く、その中でNEXIに出会い「面白そう」と思ったことが入社のきっかけです。
私はいろいろなことに興味・関心があるタイプの人間なので、「NEXIでなら部署異動が転職に匹敵するほど、新しいチャレンジができる」と感じたことも決め手の1つです。大学で専攻していた国際関係論は政治学、法学、経済学などいろいろな分野が集まっている学問で、さまざまな知見を組み合わせて多面的に物事を見られることが醍醐味(だいごみ)でした。多様な観点を大切にして仕事がしたいと考えていた私にとって、さまざまなことに挑戦できるNEXIの環境は魅力的でした。
入社1年目から、世界を飛び回る日々
──NEXIに入社してからはどんなお仕事を?
藤木:入社してまず経営計画や広報、国際関係などを担う企画室 企画グループに配属されて、その中で国際関係業務を担当することになりました。今の業務にも通じる、世界各国の輸出信用機関(ECA)との連携、国際輸出信用保険機構(ベルン・ユニオン)という会合への参加や参加に伴う各種調整業務などに1、2年目は携わりました。ベルン・ユニオンとは世界84(2024年末時点)のECAが集まり1週間かけて意見交換を行う会合です。
世界各国にECA(輸出信用機関)があり、韓国や中国、フランス、オーストリアなどにもNEXIと同じような機関があります。それらの機関と2国間で意見交換を行うバイ協議に参加するために、ソウルや青島、コルマール、ウィーンなどさまざまな都市に行く機会もありました。入社2年目まではそういった会合や協議のアジェンダ調整、プレゼンの取りまとめなどを担っていました。
入社2年目の1月からは、かねて希望していた大型プロジェクトを担う融資保険を扱う営業第二部への異動がかない、電力グループに配属となりました。そこでは主にプロジェクトファイナンスと呼ばれる金融手法を使った案件の組成などに携わっていました。バングラデシュやウズベキスタンのガス火力やエジプトの風力、ケニアの太陽光など、さまざまな発電所案件を上司とともに手がけていました。
例えば、日本企業がスポンサーとなって現地で火力発電所を作る際、大きな資金が必要になるので銀行から融資を受けます。ただ、銀行側は戦争や外貨送金規制、プロジェクトの失敗など、さまざまな理由でお金が返ってこないリスクがあるわけです。そういう時に活躍するのがNEXIの貿易保険です。
具体的には、何らかの理由で融資の返済不履行が起きた時に、融資額の9割なり全額なりを肩代わりする役割としてプロジェクトに入ります。主体的に案件のデューデリジェンスをしながら、その融資に対して保険を提供していいかどうかを判断する仕事です。銀行やスポンサーの企業はもちろん、弁護士、技術コンサルタント、税務アドバイザーなど多様なステークホルダーと一緒に案件を進めていけたのは、いい経験でした。特にスポンサーとは利害が対立するのですが、交渉を進める中で調整能力を培うことができたことは大きかったと思います。
ちなみにバングラデシュの火力発電の案件だと保険金額はNEXIが関わっている融資部分で大体200〜300億円くらいです。液化天然ガス(LNG)プロジェクトなどの資源開発系の案件になると、保険金額はもっと巨額になる傾向があります。また、これから水素やアンモニアなどの新技術が出てくる中で、新技術の案件がきた際に、どうNEXIとして引き受けることができるか検討することも、私のミッションの1つでした。
エネルギー安定調達の最前線で担った重責
──その後、2022年2月からは資源エネルギー庁の石油・天然ガス課(現・資源開発課)に出向されたと伺いました。どんな業務をされていたのでしょうか?
藤木:大きく2つあり、1つは資源外交です。石油・天然ガス課はその名の通り、海外からの石油や天然ガスの安定調達を担う課で、エネルギーを安定調達するための戦略を描き実行する役割を担っています。
例えば、資源国において、資源開発に関するプロジェクトの多くは国家的なプロジェクトです。そのため、日本の民間企業によって事業が行われる場合でも、開発段階や運営段階などのさまざまな段階で政府が間に入って、政府間での協議や交渉が必要となることがあります。LNGの需給が世界的に窮迫(ひっぱく)した時期にあった中で、既存の供給国とのLNGの安定供給に係る協議や新規の調達先との交渉を行う資源外交は国のエネルギー安全保障を担う重要な仕事だったと思います。
もう1つは国際交渉です。石油や天然ガスは人が生きるために必要なエネルギー源ではありますが、化石燃料です。2050年までに温室効果ガスを全体で0にするカーボンニュートラルに向かって進んでいく機運の高まりとともに「化石燃料=悪」とされ、国際的に化石燃料の使用を減らすように呼びかけられています。そのような中で、国際世論に対してどういったメッセージを出していくのかも重要な仕事です。
エネルギー自給率が低く、すぐに使える資源の少ない日本は、化石燃料の調達をさまざまな国からの輸入に頼っています。また、今後成長が見込まれるグローバルサウスと呼ばれる国々でも経済成長を行っていくためにはエネルギーを欠かすことはできません。しかし、季節や時間帯によって発電量が変わってしまい、地域によっては安定的かつ十分な発電量を賄うことが難しい再生可能エネルギー(再エネ)だけに頼るわけにもいかないのが実情です。そして何より、気候変動との関係を考えた際に、真に悪いのはメタンや二酸化炭素などの温室効果ガスであり、そうしたものへの対策をきちんと施すのであれば、化石燃料もカーボンニュートラルと整合的な形で利用していくことは可能なはずです。国際会議の成果として出す共同文書は国際世論に与える影響が大きいからこそ、実情を踏まえたバランスの取れたメッセージとなるように文言を調整することが重要であると考えており、その交渉などを担っていました。
──出向先から戻ってきてからどんなお仕事をされていたのでしょうか?
藤木:NEXIに戻ってからは、営業第二部の資源グループに着任しました。出向先で携わっていた資源開発プロジェクトにプロジェクトの当事者として関わることになり、パプアニューギニアやモザンビークにおけるLNGの開発やモニタリングにも携わりました。
2024年5月に岸田元総理がブラジルに訪問した際には、ある成果を日ブラジル両政府代表の前で発表するために社長と同行させてもらいました。具体的には、ブラジルで作った鉄鉱石を本邦企業が引き取って還元鉄を作るための協力を、一層推進することに合意する覚書を発表するもので、日本とブラジルが連携して鉄鋼サプライチェーンの脱炭素化に資するプロジェクトに取り組んでいることをアピールしました。
風通しを良くし、何でも聞ける/言える関係に
──新卒7年目ではポストチャレンジ制度を活用して企画部 国際グループのグループ長(マネージャー)になったと伺っています。そこではどんな業務を担っているのでしょうか?
藤木:国際グループの主な業務は、当社のような海外のECAと関係を構築し、ベルン・ユニオンやバイ協議を運営することです。国際グループは会社の中でも平均年齢の若いグループなのでマネジメントだけに徹するわけにはいかず、私自身もプレイングマネージャーとして現場で動いています。
経済協力開発機構(OECD)における国際交渉も業務の1つです。私たちのような各国のECAが自国の企業をサポートするために、すごく安い金利でお金を貸したり、返済期間を極端に長くしたりすると、各国の企業間の競争環境をゆがめてしまいます。そこで、OECDでは参加国間で「OECD公的輸出信用アレンジメント」という共通ルールを決めており、そのルール交渉も私たち国際グループの仕事です。
──ちなみにポストチャレンジ制度で手を挙げてから、管理職に就任するまではどんな選考プロセスになるのでしょうか?
藤木:公募対象のポストの職務内容、求められるスキル・経験、人物像が提示され、これまで業務にどう取り組み、どう成果をあげてきたのかと同時に、これから当該ポストでどのように取り組んでいきたいかをまとめた書類を人事に提出します。その書類をもとに、面接でこれまでの業務経験に加えて、グループとしてのあるべき姿、今後やりたいこと、できることなどを伝えます。その後に人事委員会を経て適任者がいれば登用されます。
──マネージャーになってから心境の変化はありましたか?
藤木:幸いなことに「自分への責任」という観点からは大きな心境の変化はなかったように思います。日頃からマネージャーの視点を意識して行動するように心掛けていましたし、自分がマネージャーに提案する事柄には責任を持つことを常に意識していたからかもしれません。そうは言っても、自分の判断が自分に返ってくる今の方が責任は感じます。
他方で、「他者への責任」という観点からは意識が大きく変わりました。チームとしてより大きな成果を出していくためにはメンバー全員が成長する必要があり、そのために何でも聞ける/言える風通しのいい環境は大事です。自分がメンバーだった頃、上司に何かを相談する時に緊張したこともありましたし、一定の緊張感は必要だと思いますが、そのために聞かなければならないこと/言わなければならないことを飲み込んでしまってはチーム全体にとって損失になるため、なるべく風通しを良くするために話しかけやすい雰囲気づくりは意識しています。
その上で、いつかは仮に私がいなかったとしてもチームの業務が回るようにしたいですね。チームのみんなと判断基準を共有しながら、チームメンバーが自分の判断に自信を持って仕事を進められるようにできればと考えています。そのためにも、やはり常に風通し良くコミュニケーションを取ることで私の考えを理解してもらうことが大切だと思っています。
目指すのは、仲間の「理想」も一緒に背負える管理職
──これから入社する新卒の方には、どんな力が求められますか?
藤木:国際関係業務においては、社内のいろいろな人たちをコーディネートすると同時に、相手機関とアジェンダの交渉をする必要があります。時には政府の関係者と政治的にセンシティブな話題を扱うこともあり、バイ協議などに組織を代表して当社の役員と参加するケースが多いので、高い調整力や交渉力は一定程度求められると思います。
ただ、それは入社後にさまざまな業務を経験していく中で身に付けていくものなので、それよりもいろいろなことに関心を持ち、積極的かつ前向きに情報を取りに行って、吸収する力の方が大事です。国際グループというと華やかに聞こえますが、会議の調整からその後の処理まで泥臭くて大変な業務も多いです。そういった業務にも前向きに取り組めるポジティブさは、国際グループに限らず、どんな部署に配属されたとしても必要な素養だと思います。
──メンバーもマネージャーも経験した中で、NEXIで働く醍醐味はどこにあると感じていますか?
藤木:2つあると思っています。1つは裁量の大きさです。それぞれの部署が高い専門性を有して少数精鋭で業務を行うため、個々人は必然的にその道のプロとして、考え、判断することが求められます。そのような中で、どんな役職の人の意見であっても筋が通っていれば「自分はこう思う」「自分はこうありたい」と提案したことが通りやすい環境であると感じます。
もう1つは、自分が正しいと思うことを正しいと言える環境です。NEXIは日本企業の海外展開を支援する機関ですが、日本企業の利益と日本全体としての国益がぴったり一致しないこともあります。例えば、案件に関与する日本の民間企業「だけ」の利益の最大化を考えるとその企業が提案しているとおりに進めた方がいいものの、日本のECAとして、日本の輸出政策や資源確保などの国益に照らしたときによりいい形の支援がある場合もあります。そうしたときに自らが正しいと思うことを提案し、実現できる環境です。
そういった意味では、自分の中で判断軸があり、正しいことを貫くスタンスが取れる人の方が働きやすいと思います。
──最後に、今後のビジョンを教えてください。
藤木:NEXIは、日本企業の海外展開を後押しする機関であるため、業務の多くが「国際」的です。NEXIが行うことのできる国際連携のポテンシャルはまだまだあると思いますが、その大きなポテンシャルと比較すると、国際グループは成長途中の小さな組織だと思います。ECAとの全般的な連携は国際グループが行いますが、個別の案件や債権回収などの個別分野での国際連携はそれぞれの部署が行います。1つの部署で全てをこなすことはできないため、分業が進んだ今の形が最適解の1つであると思う一方で、NEXI内の部署間での連携はもっと強化していくことが可能だと考えています。今でも必要な情報共有は行われていますが、部署間連携をより一層強化するためにも、将来的には横串を刺して国際的な業務をけん引できる存在を目指す必要があると思っています。
自分がこうありたい、組織がこうあるべきだという思い、それを「理想」と呼ぶと少し気取った言い方かもしれません。それでも自らの「理想」を掲げた上で、チームメンバーの「理想」もひっくるめて背負い、自分たちが正しいと思うことを追求できるマネージャーになりたい、というのが長期的なビジョンです。まずはマネージャーとしての基礎的な力を身に付けることが前提ですが、培ったものを生かし、いつか独りよがりではない「理想」を実現できるようになりたいです。
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