「配属ガチャに失敗した。転職したい」
「新卒で入った会社の配属ガチャで将来左右されるのツラすぎる」
毎年5〜6月、Twitterのタイムラインに流れてくる新入社員のつぶやき。ソーシャルゲームのガチャのように、配属先がどうなるか分からない「配属リスク」は、ファーストキャリアを選ぶ人にとっては重大な問題だ。ワンキャリアが2024年卒を対象に実施した調査でも、企業選びで重視することに「自分のなりたい職種である」と挙げた学生は全体の45.5%に及んだ。
こうした学生のキャリア観を背景に、企業側も新しい取り組みを始めている。象徴的なのが、職種別採用やコース別採用を導入する企業の増加だ。
配属は希望の部署に。脱・新卒一括採用の動き
職種別採用は、その名の通り新卒採用を職種別に実施する採用方式で、初期配属も明確だ。「マーケティングコース」「セールスコース」といった形で募集することから「コース別採用」と呼ばれることもある。
下の図は、職種別・コース別採用を導入した企業の東大・京大就活人気ランキングだ。この2年で順位が上昇している企業が目立つことが分かる。
職種別採用のように、職務(ジョブ)を決めて雇用する方式は「ジョブ型雇用」といわれ、欧米では一般的なやり方だ。従来の日系企業のように、新卒一括採用で入社した社員がジョブローテーションでさまざまな職種を経験するのは「メンバーシップ型」と呼ばれている。
職種別採用によって専門性の高い人を獲得しようとする動きは、新卒一括採用から変化しようとする企業の動きと考えられるだろう。
98コースまで細分化する企業も。負担増でも「メリットは大きい」
実際のところ、企業の狙いはどこにあるだろうか。先ほどのランキングで上位に入ったソニーグループを例に挙げてみよう。
ソニーグループは初期配属のミスマッチを防ぐためにコース別採用を導入している。特徴はそのコース数の多さで、他社と比べるとかなり細かく分かれている。
採用を担当している清水舞子さんは、ワンキャリアのイベントで次のように語っている。
清水:ソニーでは2013年から「コース別採用」を開始しました。技術や事務などの職種の垣根を越えて、学生はエントリー段階で第3希望まで提案できるのが特徴です。2023年卒では98コースを用意しています。
──そんなにあるんですか!
清水:最初はもっと大まかな分類だったのですが、学生のニーズに応えたり、入社後のミスマッチを減らそうとしたりした結果、どんどんコースの数が増えていったという形です。もちろん、人事としても選考の途中で「こっちの方が合うんじゃない?」といったレコメンドやフォローもしますが、選ぶのが大変だったという学生さんもいましたね。
ソニーには「自分のキャリアは自分で築く」という言葉があります。「学生の皆さんがファーストキャリアを考えるきっかけになったら」と当時の担当者は考え、コース別採用の制度を作ったそうです。
──業務内容の説明動画を各コースで作っているんですよね。人事側の負担も相当なものかと感じました。
清水:はい。コースごとの面接官の確保やオペレーションを組むのは、人事としては正直とても大変です(笑)。しかし、最後は必ず学生の同意を取った上で最終内定を出すので、皆さん満足度は毎年高いですし、入社後のモチベーションとやる気の維持にもつながります。大変さを加味しても、実施するメリットは大きいと思いますね。
▼インタビューの詳細はこちら
・【ソニーとDeNA 】情報開示は学生の信頼につながる。採用にも離職防止にも効くジョブとキャリアの「オープン化」とは?
新卒で職種別・コース別採用を実施している主な日系企業一覧
ここまで学生・企業双方のメリットを紹介してきた。ただ、注意すべきなのは、職種別・コース別採用を導入する企業に入ったとしてもミスマッチが完全に解消されるわけではない、ということだ。企業によってはコースの中に複数の職種がある形で募集しているケースもあるし、そもそも職務内容は合っていても働き方や企業風土が合わないこともあるだろう。
以下に職種別・コース別採用を導入している主な企業を紹介している。参考になれば幸いだ。
NTTデータ
NTTデータはコース別採用を導入している。「SE(システムエンジニア)・コンサル・営業コース」「建築系ファシリティマネジメントコース」「電力系ファシリティマネジメントコース」「法務スタッフコース」「財務スタッフコース」「人事スタッフコース」の6つがあり、コースごとに職種が決まっている。ただ、SE、コンサル、営業に関しては、適性によって研究開発部門、スタッフ部門などへ配属される可能性がある。
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ソニーグループ
ソニーグループは先ほど紹介した通りコース別採用を導入しており、初期配属の職種がそれぞれ決まっている。
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資生堂
資生堂は職種別採用を導入している。職種は「セールス」「ブランドマーケティング」「リサーチ&デベロップメント(R&D)」「サプライチェーン」の4つ。事業所限定の職種としては、「国内工場(製造系・技術系・事務系)」「美容職」がある。
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味の素
味の素は、4つのコースに分かれて採用を実施。研究開発・生産(研究、製品開発、技術開発・企画、エンジニアリング、生産、品質保証 他)、セールス/マーケティング(国内営業・海外営業・営業企画・商品開発)、コーポレート(「DX、財務・経理(2023年卒募集)」「法務・知的財産、人事・広報(募集予定なし)」)、新事業開発((1)アイデア創出、市場・顧客調査、ビジネスモデル構築、事業計画策定、PoCなどを通して事業構想をまとめる。(2)事業構想の検証を進め、成長可能な事業に仕立てる)がある。コース内には複数の職種が存在しており「配属先は、会社のニーズ、本人の志向・適性などを勘案し決定しております」と説明している。
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サントリーホールディングス
サントリーホールディングスは、4つの部門に分かれて採用している。ビジネス部門(国内/海外マーケティング、国内/海外専門スタッフ、国内酒類営業、国内食品営業)、財経部門(国内/海外 財務・経理)、デジタルテクノロジー部門(デジタルマーケティング、ITコンサル、営業推進)、生産研究部門1・2(基盤研究、商品開発、技術開発)がある。
コース内には複数の職種が存在しており「内定後に配属面談を実施し、1人ひとりの希望や適性や挑戦したい気持ちなどを伺った上で、配属先を決定しています」としている。
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楽天グループ
楽天グループのビジネス職では、楽天の全ての部門・職種に配属の可能性がある「ビジネス総合コース」と、初期配属や職種を確約する各コースがある。初期配属が確約されるコースには「FinTechコース」「コーポレートコース」「デザインコース」「マーケティングコース」の4つがある。
一方、エンジニア職は通年採用を行っており、職種や配属が確定している。
江崎グリコ
江崎グリコは、初期配属の職種が確定している「職種別採用」を取り入れている。職種コースは「技術開発(エンジニア)」「マーケティング/コンシューマーリサーチ」「セールス」がある。なお、入社後の職種変更も可能にしている。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、初期配属にてコース・本部を確約する採用を導入している。専門知識を生かしながら自立的に業務を行う「事務職(本部)・技術職(コース)」、特定の業務で自ら考え業務プロセスを行う「業務職」に分かれる。
「事務職(本部)・技術職(コース)」では、「幅広い業務領域」で専門知識を生かしながら、「企画・開発・調整業務」を自立的に遂行する業務を行います。業務職では、「特定の業務領域」で高い実務力を生かし、自ら考え、関係者を巻き込みながら業務プロセスの改善を担う。
日立製作所
日立製作所は、2022年度の新卒と中途採用のうち9割は「ジョブ型雇用」を適用すると発表した。
職種は全14種類で、「研究開発、設計開発、システムエンジニア、資材調達、生産管理、生産技術、品質保証、営業、営業技術、人事、経理財務、法務、知的財産マネジメント、事業企画」などがある。
技術系職種では、一部のジョブを対象に学歴別一律の初任給額ではなく、対象者の技能、経験および職務の内容などを考慮した、個別の処遇設定を可能にした。また、事務系職種でも「職種別採用コース」を新設する。
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損害保険ジャパン
損害保険ジャパンは2023年4月入社から「ジョブ型コース」を新設する。
「ジョブ型コース」で採用された人材は、一定期間を該当する専門領域の「ジョブファミリー」内でローテーションすることで実務経験を積み、専門性をさらに伸ばす育成をするとしている。
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KDDI
KDDIの新卒採用では、応募するコースによって初期の配属先を確約するかどうかを選べる。配属領域を限定しないOPENコースには「技術系」「業務系」があり、それぞれの職種に振り分けられる。
職種別採用のWILLコースには「ネットワーク:インフラエンジニア」「ネットワーク:ソリューションエンジニア」「クラウド・アプリケーション」「UXデザイン」「セキュリティ」「データサイエンス」「ファシリティ」「リーガル&ライセンス」「アカウンティング&ファイナンス」「ビジネスインキュベーション」「アカウントコンサル(法人営業)」「パートナーマネジメント(代理店営業)」がある。
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