過去の記事を読んでいただいた方はご存じだと思うが、私は学生時代、就職活動および就活産業をクソだと思っていた。そんなひねくれ学生の私も、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て就職。社会人になって数年たてば「新卒採用の選考官」を任せられ、OB・OG訪問を受ける側になった。ミイラ取りも賃金のためにはミイラにならねばならないこともある。
就活生からすると、就活で遭遇する若手社員は仕事に情熱を燃やしキラキラと輝いて見えるかもしれない。そんな、進研ゼミの漫画に出てくる「進んだセンパイ」みたいな人間も一定数いる一方で、私はというと……そう今回は「面接する側目線」の話である。
<連載:キラキラOLなりそこない どっこい就活記>
周囲の学生たちがリクルートスーツに身を包み、合説や面接に励みはじめるのを横目に、就活産業に反発したあの頃。「就活の王道」を素直に歩めず、悪戦苦闘したあの頃を振り返る。
新卒で入った会社では、若手社員も一次選考の面接官やOB・OG訪問、リクルーティングに参加することがあった。就活でよく遭遇する「現場社員」というやつである。
学生時代に散々「就活産業はクソだ」と言っておきながら、社会人になったらちゃっかり面接官の席に座って偉そうに学生を「選別」する。どの面下げて、と内心思うものの、いざ就活生の前に座ったら、普段は上司に詰められてトイレで泣いている新卒数年目社員の私も「先輩」の顔になってしまった。
仕事では偉そうなことを言えないからこそ、学生の前ではここぞとばかりに会社のビジョンやら事業の将来性やらを語りキラキラ社会人を演じてしまう。さらに自分の関わっているプロジェクトの有意義さを声高に喋(しゃべ)り、学生にアドバイスめいたことまでする。
学生A「つっきーさんは普段どんなお仕事をされているんですか?」
私「まあ、最近は○○(世の中的に有名なサービス名)の企画(の一番下っ端)に入ったりして忙しい(主に雑用)んだよね〜」
学生A「え〜すごいですね! 尊敬します!」
学生は赤べこのごとくウンウン頷(うなず)いて聞いてくれる。
学生B「どうしたらそんな風に若いうちから注力事業に抜擢(ばってき)してもらえますか?」
私「私の場合は入社したときからやりたいことをアピールしてた(せいでまだ全然スキルもないのに)(単に人が足りなかったから)(半強制的に異動させられただけ)かなあ」
学生B「わ〜さすがです! 憧れます!」
学生に近い年齢の社員であるほど、キラキラ社会人を演じてしまう傾向は高いように思う。かくいう私も幾度となく立派な先輩ぶった経験がある。そして、デスクで我(われ)に返って「5分前まで偉そうに語ったくせに……私って一体……」と、学生にアツく語った内容と自分のしょぼい現在地のギャップを噛(か)み締めたりした。
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あれから転職を何度か経た今思うのは、「新卒数年目の若手社員が、自分の企業について客観的に語るのは非常に難しい」ということである。同業界のなかでのその企業の立ち位置や雰囲気を客観的に知りたいのであれば、ある程度年次が上で転職を経てきた中途社員に話を聞いた方が良い。
福利厚生や働き方が他に比べてどうか、風通しが良い方なのか、業務内容のハードさ、などなどについて、若手社員が知っているのは、最初に配属された部署の情報のみであることが多い。一カ所に数年間いて感じたことを主観で話すしかないので、面接官の立場も相まって自然と「ここは良い場所だ」「私の仕事は素晴らしいはずだ」と熱弁をふるってしまうことも多いのではないか。
言ってみれば「新卒ハイ」のようなものだろう。新卒生え抜きの若手と話すときは、エピソードは7割程度に聞きつつ、今後近いところで一緒に働く先輩としてどうか? という視点で接しておくくらいが良さそうだ。
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新卒ハイは、酒が入るとさらに加速する傾向があるので、「飲みながら話聞くよ」などと誘われたときは要注意である。「アドバイスの皮を被った自分語り」を酒の肴(さかな)にされてしまう可能性ありだ。
ましてや女子学生は絶対に男性社員と一対一で飲みにいかない方が良い。あわよくばと思っている奴(やつ)も、席を立った隙に飲み物に何か入れるような奴も残念ながら本当にいる。男女で一対一で夜に酒を交えて話そうと誘ってくるのは下心がある奴か、会社の経費でうまいものを食べようとしているコスい奴か、その両方を目論(もくろ)んでいる奴なのでなんにせよ話を聞く価値はない。
親身に相談に乗ろうと思っているならスタバでチャイティーラテでもしばきながら話すで十分である。コロナ禍でもOB・OG訪問はオンラインではやりにくく、対面で会って話を聞く学生が多いと聞くのでぜひ気をつけてほしい。
ただ、学生側もほんの少し配慮は必要だ。私は学生からOB・OG訪問の誘いを受けた際に「就活で忙しいのでこの日時でお願いしたいです」と言われて「私も仕事が忙しいのですが……」とキレ気味で返してしまい、めちゃくちゃ長文で謝られたことがある。他意はなくても仕事で限界を迎えていると人に優しくできないこともあるのでちょっとだけ気をつけてくれると嬉しい。
就活で忙しかった彼は今元気でやっているだろうか。あのときは申し訳なかったなといまさら思う私は、やはり採用担当者として就活生にアツく語ったようなキラキラ会社員になるにはまだ遠そうだ。
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かつて垢(あか)抜けない地方の大学3年生だったころ、嫌々ながら「就活」のビッグウェーブに乗った私の昔話ももう7本目を迎えた。胃痛に襲われたはじめての合説・男性役員にムカついた末の内定辞退・就活産業への反発、そしてスナック店員に……などなどの話はバックナンバーを読んでほしい。
就活の参考にするなら他の方のコラムを読んだ方がためになると思うが、私のコラムが、「こんな奴でも一応社会人になれたなら俺(私)もまあなんとかなるか」という安心材料になってくれたら、と願ってやまない。
▼「どっこい就活記」バックナンバーはこちら
・はじめてのリクスーパンプスが辛すぎて、気付いたら大戸屋にいた話
・「女性が働きやすい会社です」と役員全員男性の面接で言われた話
・「面接で私の何が分かるんだよ」品川駅のホームでマカロン食い散らかした話
・本当にこの会社でいいの……?不安をごまかすため「内定先自慢」に走った愚かな私
・「就活人気ランキングを捨てよ、街へ出よう」と思ってスナックで働いた話
・他の内定者、みんな優秀そうに見える問題について
・OB・OG訪問では要注意?学生に話を盛ってしまう若手社員の「新卒ハイ」問題
(Photo:Indypendenz/Shutterstock.com)
※こちらは2021年2月に公開された記事の再掲です