ある面接の帰り道、大通りから少し外れた路地裏に、こんな看板を掲げた道場を見つけた。
──「悩める就活生、誰でも歓迎!」
師範の名前は、マイアミ啓太こと萩原啓太さん。
就活では難関企業のフジテレビから内定をもらい、入社後は史上最年少で演出家に抜擢(ばってき)され「人生のパイセンTV」を手掛けた。他、「笑っていいとも!」「キスマイBUSAIKU!?」「とんねるずのみなさんのおかげでした」などフジテレビを代表するバラエティに携わった後、2019年独立。現在は株式会社MOOOVEを立ち上げ、でテレビ・動画制作事業を手がけながらも、「就活生の力になりたい」と熱い思いを燃やす。
マイアミ啓太が就活生の悩みに答える新企画「就活のパイセン道場」。今回訪れた「ネガティブ就活生」のジュンコが抱く悩みとは──。
ジュンコプロフィール:怒涛(どとう)のESシーズンを乗り切り、いよいよ目の前には面接ラッシュが迫っている。平日はまあまあ行きたい企業の面接を受けて、休日はNetflix鑑賞とTwitterのネットサーフィンで1日が過ぎていく。「まあ、こんな平凡な人生もありかな」なんて思いつつ、就活は進む。
ジュンコ:面接で「入社してやりたいことは何ですか?」と聞かれても答えられません。「大きい組織の中でどうせ、やりたいことはできないでしょ」と諦めてしまいます。テレビ局で働くことは配属リスクなどもあり「やりたいこと」ができない環境に近いと思うのですが、マイアミさんはやりたいことができたのでしょうか?
マイアミ:的確な質問ありがとうございます。
間違いなく、大きい会社であればあるほど、社員一人の意見は通らないことが「多い」と思います。
ただ、「多い」ってだけで不可能じゃありません。会社の大小で自分の意見が通る、通らないを気にすることよりも、自分がやりたいことを人に反対されてもやり通せるか、やり続けられるか、やり抜くことができるか、が大事だと思います。
つまりは、なんだってやってみなはれ。やってみないと分かりません。ってことだと思うんですよね。
ジュンコ:「やってみなはれ」と言われても、新しいことに消極的な経営陣、小言を唱えてくる上司、非協力的な同僚、会社にはいろいろな「足を引っ張ってくる要因」があるのでは? と思います。「言われたことだけやってればいいんだよ!」とバイト先で言われてる人を見たことがあるし……実際に、マイアミさんは「やりたいことを実現するため」にどんなことをやられたんですか?
マイアミ:僕はフジテレビの中でやりたいことを叫び、行動し続けました。
僕が演出を担当した「人生のパイセンTV」は当初企画を持っていっても相手にされなかったんです。
企画書を上司に持っていく人はいますが、通らなければ諦める人がほとんど。でも、何度も書き直し、出し続けました。それでも企画は通らない。だから勝手に番組を撮影して、こんな感じですと見せ、ようやく放送にたどり着きました。
何度も跳ね返された企画ですが、いざ放送すると多くの称賛を得ることとなり、その後レギュラー化が決まりました。
フジテレビでの社内起業も同じです。当時僕は、テレビと動画をもっとうまく融合したいと思っていました。そこで、企業への投資を行っているフジテレビの関連会社に「視聴者からの動画投稿サービス」の事業計画書を持ち込んで担当部署の一番偉い人に相談に行きました。
計画書を見ながら「こんなことをやりたいから社長に会わせてほしい」と直談判しました。結果的に思いが届き、社長が「今はこういう若者が少ないから面白い」と、協力してくれて事業に着手することができました。
ジュンコ:バイタリティ……何度も何度も足を運んで企画を実現までこじつける。それで生まれたのが、「人生のパイセンTV」だったんですね。いろいろ人に反対されて、心が折れそうにならなかったのですか?
マイアミ:なってもやるんです(笑)。
そもそも、何かをやりたいと思ったとき、全員が「賛成」「良いね」「頑張りなよ」なんてキレイにいくことはあり得ません! 残念ながら。正直、社会ってのはもっと複雑でドロドロしています。
最初からうまく行くはずがないと覚悟しておくくらいでちょうど良いと思います。クリアできることが決まっているゲームなんてやっていても楽しくないのと同じで、うまく行くはずがないことに挑戦するから、いろいろな壁を乗り越えて大きくなったり、成長を感じたり、達成感を得られる、と僕は思っています。
ジュンコ:まだやはり「そうはいっても……」という気持ちがあります。やったあとの失敗を考えると、「別にそこまでしてやりたいことをやらなくてもいいか」とも思えてしまいます。
マイアミ:分かります。でも僕は「失敗を前提で動いて」います。人に何と言われようが、「それは失敗ではなく経験だ」と思っています。だから世の中で言われてる「失敗」なんて、全部やったもん勝ちだと思っています。
世の中には「失敗は経験だ」と、頭では分かっていても、実際に行動に起こせる人は実は1%くらいしかいないのではないかと思っています。
だから、「失敗を経験する人」の勝算は実は高い。そのことを肝に銘じておく必要があります。
「失敗したら終わってしまう……」そんなものは全て自分の勝手な妄想です。
あの子と付き合いたい!
あぁ、でも彼氏いたらどうしよう
フラれたらダサいな……。
はぁ……諦めるか……。
みたいな? 青春時代なら「胸キュンだね!」とか「ときめくね!」とか言って、何時間でもお茶できますが、社会に出てそんなことをやってる場合じゃないです!
ジュンコ:確かに、「こっちの方がリスク高そうだし、やらなくていいや」と思って実際に行動に移さないことは今までもありました。でも、仮に「やりたいこと」にチャレンジできたとしても、「自分の活躍を妬(ねた)む人」は絶対にいますよね。「あいつは野蛮なことをやっている」と噂(うわさ)されたり、「そんなことをして何の意味があるの?」と言われたり、それを想像するとゲンナリします。
マイアミ:もちろん、社内で何かやりたい! と言ったとき、例え応援してくれる人がいたとして、同じく反対する人もいる。嫉妬する人もいます。そんな中で最も大事なのは、「何を信じてどう動くか」です。単純に「自分の核となるもの」を信じるんです。
時にそれは感性に近いものであったり、時にそれはひらめきであったり、時にそれは言い訳だったりします。
そんなもんで十分です。
ジュンコ:ネットやテレビで見かける「やりたいことを続けられている人」には強烈な原体験があるイメージです。私には、これといった原体験はないし、そんな人にはなれないと思います。
マイアミ:数多くのベンチャーの社長や優秀な経営者の方々とお会いすることができ、いろいろな話を聞いてきましたが、飛び抜けて優秀な人って1%もいないと思います。
みんな、初めは衝動に突き動かされ、反対されても立ち向かい、自分のやり遂げたいことをやり遂げた人たちが「あとあと振り返ると実はこんな思いだったよ」とカッコよく言ってますが、あんなものウソだから(笑)!
テレビと同じくらいウソ!
テレビと同じくらい編集されてる!
最初はみんな小さなひらめきや気付きが動くことによってまとまり、形になり、時には変化し、最終形態として「輝く成功体験」になっているだけです。
と、ここまでで何だか熱くてうざってぇやつだと思うかもしれませんが止めません(笑)。
ジュンコ:「熱い人だなあ」と思ってるの伝わってた……(笑)。
マイアミ:やってみる前から完全で完璧を目指して、「やっぱり無理だ」と思うのはものすごくもったいないことなので、是非行動に起こす力と勇気を身に付けてください。
状況や環境次第でやりたいことを変えるのではなく、例えどんな状況や環境に身を置いたとしても、1ミリたりともブレない人間になれば、あなたがやりたいことはどこに行ってもできると思っています。
僕もたくさん遠回りしました。皆さんにはもっと近道を、そして素早く駆け抜けてもらえるようにひとつでもヒントになるようなことを届けたいと思っています。
ジュンコ:ありがとうございます。また、相談に来てもいいですか……?
マイアミ:もちろん! いつでも大歓迎です。
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