大学3年の3月、嫌々ながら「就活」のビッグウェーブに乗り、リクスーパンプスではじめての合説に挑んだものの、慣れない格好と慣れない環境、慣れない仕草(しぐさ)に疲れ果て渋谷の大戸屋へ敗走した前回の私。
どのみち「就活スタイル」が性に合わないなら俺流で行ったれ! と開き直り、ほぼ「私服参戦」で就活本も読まず、思ったことを素直に話すことにした結果、就活は案外うまく行き始めて面接も先に進むようになった。
セオリー通りに振る舞わないことで「個性のある人材」と見なされたのだろうか。皮肉なものである。
今回はそんな私に訪れた「はじめての役員面接」のお話。
<連載:キラキラOLなりそこない どっこい就活記>
敷かれたレールにうまく乗れず「就活私服参戦」を決意した作者が、悪戦苦闘した就活時代を振り返る。
バックナンバー:はじめてのリクスーパンプスが辛すぎて、気付いたら大戸屋にいた話
最終面接かその前らへんに「役員面接」はある。大きい会社だと『半沢直樹』で見るような広すぎる会議室にずらっと偉い人が並び、向かってポツンと学生一人(もしくは何人か)という状況が本当にある。
思わず「『ショートコント:面接』じゃん」などと考えて1人で笑ってしまうような「面接らしい面接」だ。私にもその「ショートコント:面接」の時がやってきた。
とある大手通信系会社の最終の1つ前の面接だったと思う。
役員が4〜5人はいて、学生は私1人。最初は緊張したものの面接は和やかに進み、自分の考えを素直に話すことができた。役員陣も内定を前向きに検討してくれているような雰囲気で、「ここで内定出たらいいな」と本気で思っていた。
●
面接も終盤に差し掛かった頃、役員の1人が私に言った。
「うちは女性も働きやすいしね」。
5〜6年前とはいえ、「女性が働きやすい会社」というのは企業が就活生にアピールする項目の1つとして定着していたように思う。
だからか、女である私に役員が気を遣って(?)「うちは女性が働きやすい会社ですよ〜」「うちはママ社員もいっぱい活躍してますよ〜」「育休取得率は何パーセントで〜〜」と、聞いてもいないのにアピールしてきたのである。
役員に悪気は全くなかったと思う。私は女子学生だし、働く上での安心材料になると思って言ってくれたのかもしれない。
しかし、「うちは女性が働きやすい会社」だと言っている当の役員陣は「全員男性」なのだ。
ひょっとしたらあの役員の中には子育てに主体的に取り組んでいる人がいたかもしれないし(父親が子育てに主体的に取り組むのは当然ではあるが)、女性社員が理不尽な目に遭っていたら真っ先に戦ってくれる人がいたのかもしれない(部下が会社で理不尽な目に遭っていたら、一緒に戦うのが上司の役目だと思っているが)。
でも、「役員面接に女性がいない」ことは確かだった。
私には、「うちは女性が働きやすい会社ですよ〜(役員にはなれないけど)」「うちはママ社員もいっぱい活躍してますよ〜(ここにはいないけど)」「育休取得率は何パーセントで〜〜(俺は取ってないけど)」と言われているように聞こえた。星新一のショートショートくらい皮肉な話だ。
「女性が働きやすい会社」はアピールポイントになっても、「男性が働きやすい会社」とは言わない。「ママ社員の活躍」はアピールポイントになっても「パパ社員の活躍」とは言わないのである。まず、男性が働くことが前提の世界であって、女が働くのはまだまだ「異質」扱いの域を出ていないのだ。
女が働いていくってこういうことなのかと思うと、暗澹(あんたん)とした気分になってしまい、面接は途中からうわの空であった。
●
そもそも女の就活では「転勤があると婚期が遅れるから総合職はやめておけ」「一般職は総合職の嫁候補」などという言葉を何度も耳にする。ずっと「そんなもん」だと思っていたけれど、やっぱりこれは異常だ。
「女は全員総合職になって働きまくれ」と言うつもりはないし「一般職の女は総合職の男と結婚するな」と言いたいわけでもない。そもそも、総合職だとか一般職だとかの分け方もどうなんだと思っているし、働き方の度合いは男も女も好きにすればいい。
しかし「女は結婚や出産をするもの」「子供を産んだら仕事はやめるかセーブするもの」「結婚相手としてふさわしいのは仕事はそこそこで家庭に入ってくれそうな女」というあほらしい前提がいまだにまかり通っていることには黙っていられない。なんなんだほんと。くそくらえ。
そんな薄っぺらい「女性が輝ける会社」とかいうニンジンに食いつくと思われていること自体ナメられている。ナメるんじゃあないぞ。こっちはセーラームーンにおジャ魔女どれみにプリキュア、「信念持って戦う女たち」を見て育ってきてんだよ。
最近の話になるが、女性社員やスタッフへのセクハラ行為(セクハラの域をとうに超えているだろうと思わずにいられないが)を指摘され社長が辞任したあの某アパレルブランドは、「女性が働きやすい会社」を掲げていたという。
「どの口が」と叫び壁に拳を叩(たた)きつけたくなる話だが、「女性が働きやすい会社」と打ち出していたりそういう類のランキングに入っていたりする会社であっても、内実は全くそうではないケースなんていくらでもある。
本当に腹立たしい。「看板に偽りあり」だ。
特に女の就活生たち、どうか企業が貼った薄っぺらいラベルやランキングに騙(だま)されないでほしい。
看板には何とでも書ける。いいことしか書かないと言っても過言ではない。だから、選考過程でなるべくたくさんの社員に会って、楽しそうに働いている女性に出会えるかどうかを判断基準の1つに加えてみてほしい。ネットで社員の日常や口コミを見てみるのもいいと思う。
本当は看板を偽る方が悪いし偽らなきゃいけないような環境にしているのが一番悪いのだけれど、このヘルジャパンで身を守って働くには慎重になるに越したことはないのだ。悲しいことに。
●
結局その会社は内定が出たが断った。正直福利厚生も充実していたし、安定した会社だったけれどやっぱりあの面接が忘れられなかった。
圧迫されたわけでもセクハラされたわけでもなく、あの面接での役員たちには落ち度はなかったけれど、「今回はご縁がなかった」ということだ。役員に1人でも女性が増えることをお祈りしている。
そんなわけでせっかく得た大手の内定を自分のポリシーと天秤(てんびん)にかけた結果蹴ってしまった私であったが、こんな調子で就職は決まるのだろうか? まあなんとか決まるのだけれど、それまでにはまだひと波乱ふた波乱あるのである。
その話は、またの機会に。
▼「どっこい就活記」バックナンバーはこちら
・はじめてのリクスーパンプスが辛すぎて、気付いたら大戸屋にいた話
・「女性が働きやすい会社です」と役員全員男性の面接で言われた話
・「面接で私の何が分かるんだよ」品川駅のホームでマカロン食い散らかした話
・本当にこの会社でいいの……?不安をごまかすため「内定先自慢」に走った愚かな私
・「就活人気ランキングを捨てよ、街へ出よう」と思ってスナックで働いた話
・他の内定者、みんな優秀そうに見える問題について
・OB・OG訪問では要注意?学生に話を盛ってしまう若手社員の「新卒ハイ」問題
※こちらは2020年4月に公開された記事の再掲です。
(Photo:maroke/Shutterstock.com)