いわゆる「トップ就活生」と話をすると、外銀IBD(投資銀行部門)志望という人が非常に多い。しかし、外銀IBDは非常に狭き門であり、内定をもらうのは簡単ではないだろう。国内系証券会社のIBDを併願する就活生も多いが、こちらも定員が少ないため、とても外銀IBD落ちを吸収しきれるほどのキャパシティはない。
では、どうしてもIBD業務、例えばM&Aに携わりたい学生はどこを併願すべきか。
私がお勧めするのは、会計ファームBig4系のFASという選択肢だ。FASは外銀IBDほどの収入はないが、普遍的な企業財務スキルを習得できるし、将来のアップサイドの可能性もある。今回は、FASの仕事、年収、キャリアなどについてご紹介したい。
<目次>
●そもそも、FASとは何か?
●IBD、コンサルとの違い:監査法人の出自を生かしたアドバイザリーが強み
●FASの年収水準について
・(1)IBDには劣るものの、年収水準は悪くない
・(2)FASは退職金がないので要注意
●FASからの転職:外銀IBDは簡単ではない。ベンチャーCFOという選択肢も
●FASに集まる中途人材:監査法人の公認会計士が多い
・(1)監査法人の公認会計士
・(2)外銀IBDバンカー
・(3)メガバンク、保険会社、事業会社から
そもそも、FASとは何か?
FASとは、Financial Advisory Serviceの略で、M&A業務にかかわるデューデリジェンス、バリュエーションなどのアドバイザリーサービス、またはアドバイザリーサービスの提供会社を指す。
FASは昔からある業態だが、ここ数年間、M&A案件が増加傾向にあり、また、デジタルトランスフォーメーション関連業務でBig4系のFASが事業規模を拡大している。このような背景から、新卒採用を始める企業も増えているようだ。就活生にとっては、新卒入社、あるいは中途入社で、FASに入るというキャリアを念頭に置くのも悪くないだろう。
代表的なFASとしては、以下のような、Big4系のグループ会社が挙げられる。
KPMG FAS
EYストラテジー・アンド・コンサルティング
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー
PwCコンサルティング合同会社
IBD、コンサルとの違い:監査法人の出自を生かしたアドバイザリーが強み
M&Aに関するアドバイザリー業務は、FASだけではなく、IBDや戦略コンサルティングファームも行っているが、どういった違いがあるのだろうか? このあたりをしっかりと把握しておかないと、「なぜIBD、コンサルではなくFASか?」という志望動機が曖昧になってしまうので注意したい。
IBDは証券会社の免許(登録)を有する業者なので、買収資金の調達スキームを踏まえた上でのアドバイザリーが可能となる。また、歴史的・組織的にもグローバル案件や複雑な大型案件に対応するスキルを有している点が特徴である。他方、買収後のPMI的なサービスには余り関心がない。(表向きには言いにくいが、労働集約的でフィー水準的に採算が合わないからである)
FASの場合は、証券会社の免許(登録)を有しないので、IBDと違って資金調達に関わるところは深入りできない。他方、監査法人をバックにしている組織なので、デューデリジェンス、バリュエーションといった財務面からのサポートは得意である。また、買収後のPMI的なサービスも積極的に行うという特徴を有する。
戦略コンサルティングファームの場合は、M&Aアドバイザリーそのものを業務としているわけではなく、あくまでも全社戦略・事業戦略を踏まえた上での助言であり、資金調達とかデューデリジェンス的なサービスとかを広く提供することはない。
このあたりを事業・業務内容の違いとして把握しておくと良いだろう。
FASの年収水準について
(1)IBDには劣るものの、年収水準は悪くない
FASの年収水準は外銀IBDと比較すると大きく劣るが、国内系企業と比較するとかなりの高収入であり、国内系金融のIBDや総合商社と遜色ない年収を得ることも可能である。Big4系のFASの場合、タイトルが同じであればそれほど差はないようで、年収モデルは以下のようなイメージである。
職種 | ベース | ボーナス |
アソシエイト | 600〜700万円 | 100〜200万円 |
シニアアソシエイト | 800〜900万円 | 200〜500万円 |
マネージャー | 1000〜1200万円 | 300〜600万円 |
ディレクター | 1200〜1500万円 | 400〜700万円 |
パートナー | 2000万円以上 | ? |
※筆者による複数の転職エージェントへのヒアリングに基づく
会社によっては、マネージャーの代わりにVP(ヴァイス・プレジデント)、ディレクターの代わりにSVP(シニア・ヴァイス・プレジデント)という呼称を使うところもあるが、内容はほぼ同じだ。
なお、ボーナスについては業績変動や経済環境によって変動するが、リーマンショック前は、ディレクター(SVP)でボーナスを含めて2500万円という事例もあったそうだ。
(2)FASは退職金がないので要注意
FASは給与のみに注目するとかなりの高給ということになるが、監査法人系の弱みで、退職金がない。また、年金も雀(すずめ)の涙だ。したがって、外銀だけでなく、退職金がある国内系証券会社のIBDと比べても、実質的な年収は1ランク落ちるということを留意しなければならない。
FASからの転職:外銀IBDは簡単ではない。ベンチャーCFOという選択肢も
FASからのキャリアアップで代表的なものは外銀IBDだが、これはなかなか難しい。なぜなら、FASでの業務内容はM&Aと言っても、デューデリジェンス周りが多く、IBDバンカーのように、自ら案件を取りに行くスタイルとは若干異なるからだ。とはいえ、IBDへの転職も不可能ではないので、希望者は多くの転職エージェントと接触してアドバイスをもらう、あるいはIBD関係者とのネットワークを作るなど、積極的な転職活動を心がけると良いだろう。
他方、国内系金融機関のIBDや法人部門に中途採用で入るというのは有力な選択肢だ。この場合、表面的な年収アップにはつながりにくいが、退職金・年金・長期雇用などを享受できるというメリットがある。もっとも、40歳を過ぎるとかなりシニアなポジションでの転職になる点は気をつけよう。こうなると国内系金融機関でもかなり難しくなるため、早めの転職を心がけたい。
その他、GCAやフロンティア・マネジメントといった独立系ファームや、経営共創基盤(IGPI)などコンサルへの転職も可能性がある。
なお、ハイリスク・ハイリターンのキャリアだが、ベンチャーのCFO(最高財務責任者)を狙うという手もある。この場合、ストック・オプションや事業会社の経営スキルを獲得できるだろう。とはいえ、ストックオプションをもらっても、IPOまでたどり着ける確率は高くはない。複数のベンチャーのCFOを渡り歩いたり、自ら起業したりする人向けのキャリア選択といえよう。
FASに集まる中途人材:監査法人の公認会計士が多い
(1)監査法人の公認会計士
最も典型的なのは、Big4系監査法人の公認会計士だ。監査業務からIBD的な業務にキャリアチェンジすることを目指して異動・転職してくるケースが多い。
(2)外銀IBDバンカー
業務の親和性は高いものの、実はIBDからの転職者はそれほど多くない。外銀IBDとFASとを比べると、年俸水準は少なくとも2倍は違うし、M&A界隈(かいわい)では、外銀IBDの方がFASよりステータスが高いためだ。
だが、リストラによって外銀IBDからFASに来るという事例は多く、例えばリーマンショックのころは、リストラされた外銀IBDバンカーがFASに多く押し寄せ、吸収されたという。
▼外銀バンカーについて詳しく知りたい方はこちら ・リーマンショックでクビになった、外資系金融マンたちのその後
(3)メガバンク、保険会社、事業会社から
金融プロフェッショナルとしてのスキルと職務経験をつけるために、メガバンクや保険会社などの国内系金融機関からFASに挑戦してくるパターンもある。これは先ほどの外銀IBD→FASとは反対に、キャリアアップといえよう。
もっとも、大手金融機関といえども、かなりのスペックがないと、FASからは採用してもらえないため、一定の学歴や英会話力が必要になる。特に、監査法人系であるBig4のFASではUSCPA(米国公認会計士)を結構評価してもらえるので、大手金融機関の職歴と米国CPAがあれば、採用してもらえる可能性が高まるだろう。
また、事業会社で財務・IRなどの部門にいる人たちが、金融プロフェッショナルを目指してFASに転職する事例もある。その場合も、それなりの学歴と米国CPAがあった方が良いだろう。
*
Big4系FASはネームバリューがあるし、給与水準も高い。若いうちにハードに働いた後、年金や退職金がある国内系金融機関に乗り換えるという選択もしやすい。M&Aなどのコーポレート・アドバイザリーに興味がある人にとっては悪くない選択肢だろう。外銀IBDを考えている学生、金融プロフェッショナルとして身を立てたい学生は、検討してみてはどうだろうか。
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※こちらは2020年2月に公開された記事の再掲です。
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