銀行といえば、メガバンク。そう考える就活生は多いだろう。
マイナス金利政策で収益も減り、最近はその人気に陰りが出ているものの、20世紀から続く人気企業であることには間違いない。
ただ、外資系金融を推す私が今、学生の皆さんにお勧めしたいのは「政府系金融機関」だ。
店舗数が少なかったり、上場していなかったり、そもそも個人向けの事業をやっていなかったりと、メガバンクと比べると知名度は劣るものの、いわゆる「まったり高給」の穴場ともいえる存在だからだ。
また、民間の金融機関と比べて公益性を重視する事業が多く、新型コロナウイルスによる経済危機を背景に、存在感が高まると考えられる。
代表的なところとしては、日本政策投資銀行(DBJ)、国際協力銀行(JBIC)、商工組合中央金庫(商工中金)、日本政策金融公庫(JFC)が挙げられるが、このほかに農林中央金庫(農林中金)、信金中央金庫(信金中金)なども、企業向け資産運用の世界では有名であり、新卒採用も行っている(この2社は厳密には「系統金融機関」と呼ばれるが)。
相性が合えば、金融志望の就活生にとっては魅力的な就職先になるはず。そこで今回の記事では、気になる給与水準なども含め、各行の特徴を解説していこう。
日本政策投資銀行:融資だけでなく投資もカバー、メガバンクを上回る給与水準も魅力
DBJ(日本政策投資銀行)は、1950年代に設立された「開銀(日本開発銀行)」を祖とし、日銀や日本輸出入銀行(現:国際協力銀行)とともに、何十年も昔から知る人ぞ知る、トップ学生の間では人気の高い銀行だった。
同行は長期的な事業への投融資をミッションとしており、融資だけではなく、ファンドを通じた投資案件も手掛けているのが特色だ。
新卒採用のWebサイトを見てもらえれば分かるが、「プロジェクト・ファイナンス」や「ストラクチャードファイナンス」といった、カッコよさそうなキーワードが並んでおり、外銀や国内系のIBD志望の学生がいかにも好きそうな事業内容である。
とはいえ、証券会社のIBDやPEファンドとは業務内容は異なり、ここにいたからといって、将来、外銀IBDなどに転身できるわけではないので注意したい。
気になる給与水準は?
端的にいえば、給与水準は悪くない。生涯賃金で見ると、メガバンクと同じかそれを上回るレベルだ。
初任給は400万円程度と他の金融機関と大差はない。その後少しずつ昇給し、30歳の副調査役で900万円前後だろうか。1000万円に到達できるのは、調査役に昇格できる32歳以降だと思われ、ここまでの昇給ペースはメガバンクの方が早そうだ。
その後もじわじわと昇給し、40歳で課長になると年収は1500万円くらいになるため、メガバンクの同年代を上回るケースも増えてくる。ただ、そこから先はかなり厳しい。政府系ということもあり、役員クラスの年収が総じて抑えられているためだ。
とはいえ、安定性が非常に高く、リテール営業もなく、当然ステータスは高い。「長期的な視点からの事業支援」というカッコいいミッションも相まって、総合的に非常に魅力度の高い金融機関といえるだろう。
DBJの総合職は、毎年30人程度しか枠がない狭き門だ。DBJ総合職の採用人数は募集要項を見れば確認できる。昨今は毎年50人前後が採用されているようだが(※1)、東大・京大などのハイスペ学生が好む選択肢でもあり、厳しい競争を覚悟して臨むほかない。
(※1)参考:DBJ 新卒採用情報「募集要項・選考の流れ」
国際協力銀行:キーワードは「海外」と「エネルギー」、少数精鋭のエリート銀行
日本輸出入銀行を前身とする国際協力銀行(JBIC)は、エネルギーや天然資源の安定的な確保と、日本企業の海外展開を応援することを目的とした金融機関であり、少数精鋭の政府系エリート銀行といえる。
エネルギーや天然資源に関わる海外インフラプロジェクトを金銭面でサポートするのが主な業務内容で、商社やプラント会社と協働することが多い。
海外やエネルギー・天然資源がカギになるため、JBICを志望する学生は、メガバンクや証券会社よりも、総合商社やプラント会社などを合わせて狙うのが筋なのかもしれないが、実際は「海外」「プロジェクト・ファイナンス」「政府系」という点に惹(ひ)かれて志望するトップ校の学生が多いのだろう。
気になる給与水準は?
年収水準は、度重なる制度改革や公務員給与の削減圧力の中「一昔前に比べれば下がってしまった」という声もあるが、近年は回復基調にあるようだ。ただ、ボーナスについては、国家公務員と同様に、民間企業の景況感に左右される点については覚えておきたい。日銀やDBJと同じく役員の年俸が民間に比べてかなり抑えられているというデメリットもある。
もっとも、海外に事務所が16カ所あり、海外勤務のチャンスには恵まれている。海外に赴任した場合、それなりの生活が保障されている点はメリットだろう(もちろん駐在する国によって状況は異なるが)。
JBICの場合、法律に基づく形で役員報酬や職員給与を公開しているため、その資料を見るのが最も分かりやすい。
令和元年度版の資料によると、初任給レベルではメガバンクと大きくは変わらないが、20代の伸びは鈍い。30歳時点で500〜600万円くらいであり、大台はまだまだ遠い。モデル給与として「35歳の調査役で年収約873.5万円」と記載してあり、その基準を鑑みても、40歳手前でようやく1000万円に到達できるかどうかというイメージだろう。
とはいえ、管理職になれれば給与は大きく伸びる面もあるようだ。マネージャークラスであれば、平均年収は1450万円程度(平均45.2歳)だという。これならば、日銀や先ほど紹介したDBJと比べても遜色ない水準か。公開されている年収額には残業代が含まれていないため、実際はもう少しだけ伸びる可能性もある。
年俸という魅力では他の機関にやや劣るところはあるものの、手掛ける仕事のスケール感や使命、海外勤務などを考えると魅力は十分ある。総合商社志望の就活生は、狙ってみても面白いかもしれない。
ただ、総合職の新卒採用者数は非常に少なく15~20人程度だ。2021年4月入社の総合職は22人とやや多いが(※2)、それでもかなりの少数であることは間違いない。厳しい競争が予想される。
(※2)参考:株式会社 国際協力銀行「APPLICATION」
商工組合中央金庫:「中小向け金融のスペシャリスト」を目指すならココ
商工組合中央金庫(商工中金)は、中小企業支援を目的とした金融機関だ。47都道府県全てに店舗を持ち、ミッションは地方再生に貢献すること。トレーディングやグローバル企業向けのコーポレート・ファイナンス、資産運用といったホールセール業務を強みとした組織ではない。
商工中金の特徴は「中小企業向け金融のスペシャリスト」としてのスキルを磨けることだろう。
事業承継、ビジネスマッチング、M&A、事業再生支援から海外展開支援まで、中小企業に対してはフルラインの専門サービスを提供できることを強みとしているので、そちらの世界が好きな人にとっては、非常にやりがいがある仕事になるはずだ。
また、非上場であるため、民間金融機関のような予算達成プレッシャーがなく、まったりと長く働ける雰囲気の良さも魅力のようだ。
気になる給与水準は?
商工中金の年収水準は、生涯賃金ベースだとメガバンク並みか若干高いくらい。メガバンクよりも年功序列や横並びの傾向は強いと思われる。
初年度は400万円スタートで、20代の昇給ペースはメガバンクより遅い。5年目で650万円、30歳くらいの調査役で800~900万円くらいだろうか。
早ければ入社12年目で課長(管理職)に昇格可能で、年収は1100~1200万円くらいとなる。さすがに課長は一律に昇格できないが、多くの社員は昇格できるという。また、準社宅制度や社員食堂など、福利厚生も悪くないようだ。
ただ、総合職の採用者数の推移を見ると、2017年から131→137→118→148→88と減少傾向があるのはやや気になる(※3)。
商工中金に入る難度は、古くからほぼメガバンク(当時は都銀)並みと言われてきたが、採用者数は決して多くはない。新型コロナウイルスの影響などで、民間の大手金融機関も採用数を絞ってきた場合は、急激に難度が高まる可能性もある。
少なくとも、「中小企業金融」に関する十分な学習とOB・OG訪問、語学や会計系のスペックを上げるといった十分な対策を行っておいた方が良さそうだ。
(※3)参考:商工中金 新卒採用サイト 2023「Recruit 採用について」
農林中央金庫:巨大な機関投資家として一目置かれる存在、待遇の良さは抜群
農林中央金庫(農林中金)は、巨額な資金を有し、金融業界においては巨大な機関投資家として一目置かれる存在だ。ここは政府系金融機関ではなく、系統金融機関に分類される。
子会社の農林中金全共連アセットマネジメントも、運用資産残高(AUM:Asset Under Management)は2021年3月末時点で5兆円を超えており(※4)、国内系トップクラスの運用会社と肩を並べるレベルにある。
農林中金の場合、「運用スキルを習得して、外資系の運用会社で働きたい」という志向の人は少ないと思われるが、運用に関しては非常に存在感の高い金融機関といえるだろう。
(※4)参考:NZAM「会社概要」
気になる給与水準は?
給与水準はメガバンク並みと聞くが、生涯賃金ではメガバンクよりも上といわれている。50歳を過ぎても出向に出されることはなく、昇格や評価においても年功序列の色が強い。
そのため、管理職になるまでは給与にほとんど差がつかないようだ。安定性やワーク・ライフ・バランス、福利厚生などを踏まえると、非常に好待遇の金融機関といえる。
年収については、若いうちはメガバンクとほぼ同じか、若干低い水準で推移する。最初の3年間は400万円スタートで、3年目で500万円くらい、5年目には700万円くらいとなり、入社8年目の30歳時点では800万円程度である。
大台に到達するのは入社10年目の32歳くらいと思われる。その後もじわじわと上昇し続け、35歳で1100~1200万円に。そして、入社15年目で管理職になれれば、年収は1300~1500万円となり、ここからメガバンクを上回るといわれている。
もっとも、ここから先の伸びは大きくないが、部長になると年収2000万円くらいの水準になる(部長になるのが難しいのは、民間の大手金融機関と同じだ)。
この3年で新卒採用者数が大幅減、コロナで難化の可能性も?
昔から商工中金、農林中金、信金中金(後述)の入社難易度は、大体メガバンク並みといわれていた。今でも外銀や証券専門職のような難しさはないだろう。
ただ、商工組合中央金庫と同じく、新卒採用者数(総合職)がもともと多くはなく、この5年で新卒採用者数(総合職)が102人から68人(予定)と大幅に減ったのは気がかりだ(※5)。新型コロナウイルスで難化する可能性は十分にある。
そうした場合でも対応できるよう、早い段階から就活準備が求められ、留学を含めた英語対応や証券アナリスト(CMA)あるいは簿記といった会計系の資格取得に加え、OB・OG訪問などを通じて企業研究を行うことをお勧めする。
(※5)参考:農林中央金庫 新卒採用サイト「募集要項」
信金中央金庫:総資産「約40兆円」の巨大金融機関、アットホームな社風も特徴
信金中央金庫(信金中金)は、就活生や一般的なビジネスパーソンにとってなじみが薄い存在かもしれない。
しかし、信用金庫の統括的な金融機関として、総資産が40兆円を超えており(※6)、債券、ファンド、プロジェクト・ファイナンスなど、機関投資家としての存在感が高いという面も持ち合わせている。
信金中金のメイン業務は「信用金庫のサポート業務」と「マーケット運用・貸出」の2本柱だ。採用Webページを見ると、信用金庫のサポート業務はさらに、「信用金庫の業務サポート」と「信用金庫の経営サポート」に分かれるようだ。
資産規模に対して、従業員数が1,200人程度ととにかく少ないのも特徴だ。そのため、アットホームで働きやすい雰囲気があるという声もある。外銀、外資アセマネ、IBDといった業務ではなく、中小企業金融や地域金融への関心が高い就活生にとっては、魅力的な金融機関になるだろう。
(※6)参考:信金中央金庫「会社概要」
気になる給与水準は?
信金中金の場合、メガバンクや大手生損保と比較すると、年俸水準についてはやや見劣りするかもしれない。メガバンクの8掛け位と考えると分かりやすい。
その代わり、ワーク・ライフ・バランスは良く、評価や昇格についても管理職になるくらいまでは年功序列であり、業績評価における年収差は極めて小さいといわれている。「信用金庫をサポートする」という公務員的な使命感があるため、このような雰囲気を好む人にとっては居心地が良さそうだ。
年収については、300万円台でスタートし、4年目で少し上がり500万円を越える。その後は8年目くらいまで緩やかに上昇し続け、28~29歳で600万円台となる。
30歳前半で調査役に昇格すると年収は800万円を越える。年収が1000万円に到達するのは、30代後半以降の審議役になってからであり、40歳で年収1000~1100万円くらいが目安となる。そこから先は、部店長ということになるが、ここまで昇格できると年収は1500万円程度になると見込まれている。
選考の難度は古くからメガバンク並みと考えられているが、新卒採用者数(総合職)が毎年50人くらいと少ないため(※7)、トップ校の学生でも決して楽観はできない。ユニークな業務内容への興味、理解とアットホームな組織に合う気質かどうかも重要視されそうだ。
Web上にある情報だけではつかみづらいので、インフォーマルなOB・OG訪問を積極的に行い、十分に情報を集めた方が有利になるだろう。
(※7)参考:信金中央金庫「採用情報」
辞める人が少ないのが特徴……のはずが、最近では変化の兆しも?
ここまで政府系金融機関の特徴を紹介してきたが、こうした企業から外資系金融に転職する人ははっきり言って少ない。
外資系で年収アップを追求するというよりも、安定性やステータス、スケールの大きい仕事、公的な役割ややりがいといった点を重視する人が多いためだ。仮に途中で外資系に行くとしたら、25歳以下のポテンシャル採用やMBA経由というパターンだろう。そういう例も日銀出身がほとんどだ。
というわけで、政府系金融機関の魅力は、何といっても安定性、やりがい、働きやすさであり、終身雇用が基本だ。
実際、バブルの時代に入社したような先輩などに聞くと「確かにこの手の金融機関に行った人は誰も辞めてないよな」という話になるが、最近では、微妙に状況が変わってきているようだ。20代の金融機関勤務の人たちと話すと、最近では若くして辞める人もいると聞く。
総合商社も昔は辞める人はほとんどいなかったが、今では30歳過ぎで3割ほど辞めると聞く。これも時代の変化なのかもしれない。
政府系金融機関は、あなたの「選択肢」と「視野」を広げてくれる
政府系金融機関や系統金融機関など、この手の金融機関はそれぞれ個性的で、雰囲気もさまざまだ。採用活動も総じて熱心だと思われるが、金融機関を広く志望する学生は早い段階でOB・OG訪問をしておきたい。実態をより把握できるし、他の金融機関の見え方も変わってくるからだ。
特に商社志望で「海外大型プロジェクトに関心がある」という就活生は国際協力銀行も検討してみてはどうだろう? また、IBDやプロジェクトファイナンスに興味がある学生は、日本政策投資銀行も検討する価値は十分あると思う。
アセマネ志望であれば、超大手の機関投資家である農林中金や信金中金を調べてみると、クライアントの視点からアセマネビジネスを俯瞰(ふかん)できるだろう。中小企業金融に関心が高い学生は、商工中金も面白いかもしれない。
もっとも、これらの金融機関は新型コロナウイルスの影響もあり、難度が高くなる可能性があるので、十分な対策を早めに開始する必要があるだろう。
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※こちらは2021年2月に公開された記事の再掲です。