※こちらは2020年10月に公開された記事の再掲です。
「ちなみに、生保や損保は見てますか?」
最近、OB・OG訪問でやってくる金融志望の学生にこう聞くようにしている。
本命かどうかは別として、メガバンクを受ける金融志望者は多いはず。一方で生保や損保はどうだろう?
安定かつ高給だし、業界ステータスも高いにもかかわらず「生損保業界はパス」とスルーする学生は少なくないのだ。
その理由も分かっている。まずは「損保の代理店営業管理はつまらない」「生保のおばちゃんの営業管理はやりたくない」といった「仕事がつまらない」系。
そして「有価証券運用や不動産投資といった専門職に就けるのはごく一部で、ほとんどの場合はスキルがつきません」といった、転職力の低さを指摘する学生もいる。
▼参考記事はこちら
・「つぶしが利くから金融」は真実か?──9割の人は財務・会計知識が身に付かずに終わる
確かにスキルの習得や転職力では、外銀やMBB、国内系金融専門職コースに生損保はとうてい敵わないだろう。しかし、考えてみてほしい。外銀やMBBに入り、転職人生で勝ち続けることができるのは就活生の何%くらいなのか……と。
20代で1000万、安定かつ高給。生損保をスルーするなんてもったいない
実際のところ、外銀やMBBに新卒で入社したところで、3年後には半分、いや、3分の1も生き残ってはいない。
商社もスキルや転職力なんて付かないし、メガバンクだって同様だ。メガバンクで市場部門や法人営業部門に行ったところで、そこから外資系金融に行けるのはごく一部。仮に転職できたとしても、年収ダウンのリスクがつきまとう。
結局、多くの就活生が最後に行き着くのは「終身雇用型」の会社なのだ。
さて、終身雇用を前提に改めて考えると、生損保の見え方はガラリと変わるだろう。特に、東京海上日動火災や日本生命は生損保の中でも高給っぷりが目立つ。
メガバンクを上回る生涯賃金の高さ。両社ともに、20代のうちにほぼ1000万円に到達し、40代の管理職になると2000万は無理でも1600~1800万円くらいはもらえる。当然、退職金や企業年金を始めとする福利厚生も充実している。業界におけるプレゼンスも非常に高い。
今回は、東京海上日動火災と日本生命を例に、生損保の世界を解説していこう。
「生損保は、つまらない仕事ばかり」という誤解
まず誤解を解いておきたいのは先ほど挙げた「仕事がつまらない」という話。これは学生だけでなく、社会人の金融関係者に聞いても同じような印象を抱く人は多い。
もちろん、代理店管理や営業事務管理の比率が高いのは否定しないが、少なくとも、運用以外でもこれまでより面白い仕事が増えているのは事実だ。
生保も損保も、主戦場の国内市場は少子高齢化で将来的なパイの縮小は明らか。そのため海外市場に打って出たり、M&Aを積極化したりしている。
国内市場についても、東京海上日動火災は生保事業、日本生命は損保事業を強化しているし、自動運転やFinTechを見据えた新規事業も強化している。そういった将来の展望は、中期経営計画を見ると分かりやすい。
東京海上日動火災の未来を読み解く、3つのキーワード
東京海上日動火災の中期経営計画「To Be a Good Company 2020」や決算説明会資料を読むと、単なる国内損保事業だけではない、新しいビジネスを展開していることがうかがえる。注目すべきは以下3つのポイントだ。
(1)海外保険事業:すでに利益の半分は海外発。世界中で進む大型買収にも注目
東京海上日動火災は、今や完全にグローバル金融機関となった。
収入保険料(正味収入保険料+生命保険料)の海外比率が33%もあるうえ(2019年度実績ベース)、同年度の事業別利益を見ると、なんと海外で47%を稼ぎ出している。社員も約4割が外国人だ。
また、大型買収が世界中で行われている点も見逃せない。北米においては、Philadelphia、Delphi、TMHCC社。欧州ではTokio Marine Kilnといった大型買収によって成長中であり、アジアでもカンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナムといった途上国市場を中心に、積極的な買収戦略が展開されている。
「グローバルで活躍したい」と考える学生にとって、東京海上日動火災で活躍できるチャンスは今後も十分にあるだろう。
(2)デジタル戦略体制の強化:業界に先駆けた新サービスを次々と開発
DX(デジタルトランスフォーメーション)という観点でも、損保は面白いかもしれない。
今どきどの会社でも掲げている言葉ではあるが、東京海上日動火災の場合、2020年6月に社外に向けて「デジタル戦略の説明会」を開催したほど熱心だ。
例えば、ドライブレコーダーのデータを活用して、事故対応や保険適用などを行うサービス「ドライブエージェント パーソナル」を業界で初めて開発したり、ヘルスケア領域でオンライン医療相談「Medical Note 医療相談」の無料提供を実行したりするなど、保険の新たな形を模索していることがうかがえる。
また、デジタル戦略についてはDNX VenturesやWorld Innovation Labなどのベンチャーキャピタルや、PKSHA TechnologyやALBERTといったデータ分析に強い外部パートナーと連携するなど、先端技術への投資にも積極的だ。
こうした事業については、従来のITエンジニアだけではなく、新規ビジネスの開発や顧客向けサービスの向上といった点から、文系の非エンジニア社員にも活躍の機会があるだろう。大手金融機関の場合、既存社員でWebビジネスに強い人は少ないはず。若手にとってはチャンスがあるのではないか。
(3)事業内容のグローバル化・多角化に伴うコーポレート部門での成長機会
東京海上日動火災はグローバル展開やデジタル戦略を積極的に進めているほか、国内保険事業についても、子会社の「東京海上日動あんしん生命」の成長率が高く、国内損保事業も商品、販売チャネル、運用と変革させる対象には事欠かない。
そうなると例えば、経営企画や財務、人事、リスク管理といったコーポレート分野においても守備範囲が広がり、うま味が増すのではないだろうか。
損保の場合、証券やアセマネとは異なり、国内大手の方が外資系よりも好待遇なので、外資に転職するインセンティブはないかもしれない。しかし、外資系の場合、役員クラスになると年収は跳ね上がるので、コーポレート部門からでも役員クラスで外資に転職できるとなると、将来のキャリアの幅は広がるだろう。
東京海上日動火災はグローバル事業を強化しているので、コーポレート部門から海外勤務の経験をすると、従来よりも市場価値を高められそうだ。
日本生命で新卒が狙うべき「3つのポジション」とは?
一方の日本生命も上場企業ではないが、中期経営計画「全・進-next stage-」(2017-2020)を公表している。
東京海上日動火災とは異なり、海外事業に関する大きな目標は見られないが、少子高齢化に伴う市場の縮小と超低金利下の運用環境を踏まえて、変革せざるを得ない状況にあるのだ。
中期経営計画を見たところ、若手は以下の分野で活躍できるチャンスがあるのではないかと考えた。
(1)グループ事業・資産運用分野:海外投資やESG投融資にチャンスあり
グローバルな超低金利の環境下、生命保険は本業として運用で稼がなければ生きていけない。運用能力を高めるため、資産運用戦略の重要度が増している。
グローバルな分散投資を通じた利回り向上が求められるため、運用に関する業務においてはチャンスが生じる。中期経営計画にあるように、海外プロジェクトファイナンスへの本格的な取り組みなど、成長・新規領域への投資を加速すると表明しているので、語学や投資知識に自信のある学生は手を挙げたい分野だ。
また、今は運用の世界において、環境問題の解決や社会貢献に資する「ESG投融資」が注目されており、日本生命の中期経営計画でも戦略的な強化分野としている。ESGの分野はまだまだ専門家が少ない。このテーマを十分学習し、志望動機に落とし込むのも悪くない手だろう。
(2)ERM(Enterprise Risk Management):事業リスクも含めた管理業務は穴場
超低金利下で一定以上の利回りを達成しようとすると、その分、リスクを取らざるを得なくなるため、リスク管理の強化も求められる。
ここでいう「リスク管理」は、投資損失などの運用リスクの管理だけではなく、グループ全体の経営を対象とした事業リスク管理を包含する広い概念だ。リスク管理の専門家になれば、外銀や外資系アセマネに転職して高給を目指せるというわけではないが、全ての金融機関が将来的に重視せざるを得ない分野といえる。
従って、リスク管理の専門性を習得できれば、将来、金融業界で生き残りやすくなる。「リスク管理をやりたい」という学生や社員はあまり聞かないので、運用部門と比べて競争率が低いというメリットもある。
(3)IT関連:転職力の高い総合コンサルを狙う好位置か?
既存業務の効率化や顧客ビジネスの利便性向上のために、IT、DX関連を強化する……というのは日本生命においても同じだ。この点は損保と同様である。
ITといっても理系のITエンジニアだけではなく、文系においてもオペレーションやビジネス的な視点から社内で活躍できる余地はある。そこから、総合系コンサルティングファームに転職するキャリアも有り得るのではないか。
給与水準は、総合系コンサルティングファームよりも日本生命の方が高いかもしれないが、転職の選択肢は前者の方が強い(特に40歳以降)。転職力を高めるという観点から、日本生命のIT分野を狙ってみるという狙いもありだろう。
東京海上日動火災と日本生命を推したのは、40~50代がそれなりに満足していたから
最後に普段、外資系金融を推す私がなぜ今更、生損保の記事を書こうと思ったかについても触れておこう。それは端的に、私が知っているマリンや日生の人たちが、仕事にそこそこ満足している様子を見たからだ。
学生時代の友人のお父さん、大学の同期や先輩たちを見ていると、何だかんだ言って満足そうな生活を送っている。40歳以降だと、課長クラスで1600~1700万円、部長クラスだと余裕で2000万円を越える、終身雇用が保証され、企業年金や退職金は手厚い。そういった恵まれた環境の中で、職種に関わりなく充実した生活が感じられた。
同窓会でも、マリンや日生組は元気そうだが、20世紀の都銀組(特に被吸収組)は金融危機や合併があったために元気がなかったりする。
もっとも、これは一般化できる話ではないし、数年後に業界や各企業がどうなっているか分からない。
だからこそ、生損保に興味を持ったならば、インフォーマルな形でのOB・OG訪問で聞いてみるのが一番だろう。若手に加えて、年次が上の人たちの表情や元気さも確認しておくといい。
社会人人生は長い。「30歳や40歳になったときに幸せか」というのも働く上で大切な要素だ。そのときになって後悔しても遅いのだ。どうか長期的な視点も忘れないでほしい……というのは先輩のお節介だろうか。
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