前回、「営業はいいぞ」という記事を書かせていただきましたが、今回は「事務は辛いぞ」という記事を書かせていただきます。
誰もが「サラリーマン」というとデスクワークを想像するでしょうし、靴底をすり減らして客先を走り回るいわゆる「営業」の仕事がしたいという人はそれほどいないと思います。それでも、あえて僕ははっきりと言いたい。「事務」はとても難しい専門職ですし、適性のない人にはできません。事務職の適性差はむしろ営業職よりはっきりと出ます。
僕ほど事務適性が無い人は珍しいにせよ、それでも「事務が全くダメ」という人は多数存在します。しかし、大学生に「自分は事務が全くダメだ」と気づく機会は多くありません。アルバイトの事務ワークは基本的にデータの流し込みのような単純なものが多く、本物の専門職能としての「事務」を経験する機会はほとんどないでしょう。
今回は事務職に適性のない人が味わう「地獄」について、紹介していきます。
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チームワークという地獄
皆さんは子供の頃、サッカーボールをひたすらワンバウンドでパスし合う遊びをしたことはあるでしょうか。
僕の地域では「ワンバ」と呼ばれていましたが、僕はあのゲームがとにかく苦手でした。運動神経が鈍いというのもあるのですが、ただただボールを回し合うということに何の意義も感じられず、とにかく苦痛だったことを覚えています。
「事務」にはまさしくこのゲームの性質があります。
事務というのは通常一人でできるものではありません。多くの人員が作業を分担し仕事に当たっています。そして、この文章を読んでいる方が目指しているような大企業では、「事務」作業は非常に巨大かつ複雑なものになっています。
僕は金融業出身なので金融バックオフィスを念頭にこの文章を書いていますが、与えられた作業が業務の総体の中でどのような意味を持っているのか、理解することすら困難と言えました。
そして、事務というのは多くの人の共同作業であるため、一人の作業が遅れると最悪全体の動きが止まってしまいます。工程A~Cを3人で分担している場合、工程Aが終わらなければBは仕事に取り掛かれないということになります。全員が工程A~Cを理解していればいいのですが、作業量が膨大過ぎて一人ひとりに悪い意味での「専門領域」が発生してしまうのです。
また、事務仕事は部署をまたぐこともあります。部署Aと部署Bそれぞれがそれぞれの業務内容を全く理解しないまま協調して仕事をしていることも稀ではないでしょう。
そういった場所で何が起きるか。
チームワークが異常なほどに重要なものになるのです。あうんの呼吸、協調、忖度のし合い、空気読み。「仕事」という範疇を超えて、「上手くやっていく」としか表現できないことを求められます。そして、仕事において「突出した成果を出す」ということが不可能に近いため、常に一定の出力で安定して仕事をすることを求められるのです。これは、できる人にはできることですが、できない人には全くできないことと言えるでしょう。
「掟」を破った者の末路
では、「事務」作業でチームワークを乱すといかに致命的なことになるのか。僕の失敗談をご紹介します。
それは、有給を取って会社を休んだときのことでした。
本来、それは会社に感謝する必要も同僚に感謝することでもありませんし、当然に行使されるべき労働者の権利です。なので、僕は「有給の礼なんて言うものではない」「土産なんて買いたい奴が買えばいい」「飲み会なんて参加したくもないのに、参加した挙句お礼回り? 冗談だろ?」と考えておりましたので、なんとなく先輩たちがお礼のあいさつをしているのが視界に入っていても自分で実行しようとは露ほども思わなかったのです。
ですが、僕の昔勤めていた職場にはある「絶対の掟」があったのです。
有給の翌日や、飲み会の翌日に社内の人にその行動が当然のものとして求められました。その他、飛行機に乗って実家に帰る程度の遠出をした際は「おみやげを全員に配る」。つまり、そういった「周囲への気配りや配慮」が、まさしく「掟」と呼ぶべきものだったのです。
ある日先輩に呼び出されて「おまえは社会人の自覚にあまりにも欠けている」と説教をされたのです。その際「申し訳ありません、社会人の自覚に欠けていることは認めるのですが、その『社会人の自覚に欠けている』というのは私のどういった点から看取されるのでしょうか」と尋ねて、やっと僕は「おみやげ」と「あいさつ」が致命傷だと気づいたのです。
それは「やらなければダメなこと」なのです。この「掟」は言語化されていませんし、誰も教えてくれないのです。
これは、一種、部族社会のようなものなのだと思います。「おみやげ」と「あいさつ」は、チームワークを非常に強く要請される社会で、「私はチームの一員として振る舞い皆様に敬意を払います」と示す所作だったのでしょう。
この所作が欠けていた僕は仕事も教えてもらえず、新人としての配慮もしてもらえず、どんどん職場で孤立し「社会人の自覚のない無能」という評価をゆるぎないものとしました。結果として、僕は仕事を辞めることになりました。もちろん、僕の現実的な事務能力の欠如が最も大きい原因ですが、その問題を加速度的に悪化させたのは、この職場への順応力が足りなかったことだったと思います。
「風習」が仕事を決める
事務というのはある種の職人芸です。しかも、その「芸」は合理的なものとは限りません。
僕は相当たくさんの職場を見てきましたが、事務のやり方は会社ごとに全く違い、それは往々にして合理的なものではありませんでした。例えば、先輩がエクセルで作成したシートを電卓で検算する業務はまだ「マトモ」な部類と言えると思います。毎日パソコンのウイルスチェックを行ったことをスクリーンキャプチャで印刷して、紙に貼ってエビデンスとして保存するなんて「風習」がある職場も存在しました。
つまりどういうことなのか。
一般的な考え方「目的に照らして合理的に思考すれば、必然的に業務手順は導かれる」。これが一切通じないということです。現在自分の行っている「作業」がどのような目的で、どのような全体性の下に行われているのかを理解することが非常に困難なのです。
これは、「一問一答の問題集のみで受験を突破する」かのような難しさを発生させます。もちろん、それが得意な人もいるでしょう。実際、一問一答の問題集も存在しますし。
僕はこれがとても苦手です。「まず全体を教えてくれ! 部分は全体を知らないと理解できないだろう!」と思ってしまいます。しかし、大企業において「全体」はあまりに巨大すぎて、理解させてから仕事をさせていては到底、間に合わないのです。それどころか、上司も同僚も「全体性」を理解していない可能性も高いのです。作業は「手順」として丸暗記するしかありません。
わからなくなった場合は、「教えてもらう」しかないのです。「考えて」も答えは出ません。何故ならそれは往々にして合理的なものではなく「風習」だからです。
そして、「教えて貰う」には良好な人間関係を築く必要があります。結果として、先述したような組織への順応を証明するための非言語的な「掟」が発生するのだと僕は思います。
僕は発達障害(ADHD)を持っていますので生来の性質として事務が非常に苦手で、仕事が簡単だとやる気を失い、その繰り返しに耐えられませんでした。そのため、些細なミスを無限にしてしまい、手戻りが起こり、結果的に業務全体の遅延に繋がっていました。事務仕事は、細分化していけば一つ一つは決して難しくありません。しかし、「簡単なことを大量に素早くミスなくこなす」というのは、本当に難しいことです。僕とは逆に、利益や手柄に直結しない「事務」にモチベーションを持ち続けられる人は、非常に才能がある人だと思います。
君は農耕民族か? 狩猟民族か?
もし、あなたが自分に事務はできるのだろうかという疑問に囚われたときは、自分は「狩猟民族=営業向き」か、あるいは「農耕民族=事務向き」かというイメージで自己分析を行ってみてください。僕は成果給以外の仕事にやる気を出せない、いわば獲物を追って捕らえるような仕事を好む狩猟民族です。これは営業大好き人間の一般的な傾向と言えるでしょう。
あなたは毎日決まった時間に決まった通りの仕事を同僚と「協調して」「空気を読んで」「非合理的な風習に従って」やれますか?
自信を持ってできそうならば、あなたは農耕民族的な特質を持っているといえます。農耕は人類を爆発的に発展させました、これはとても素晴らしい能力です。
しかし、この文章を読んで恐怖、あるいは嫌悪を感じた方は残念ながら農耕は向いていないかもしれません。
その場合、自分は「成果を挙げてお金を稼ぐ」「一発当てる」「賭けに勝つ」ことにモチベーションを持てるか考えてみましょう。狩猟は農耕に比べて安定しませんし、獲物はいつでも獲られるとは限りません。それでも「獲りたい」というモチベーションに後押しされるほうが走れるタイプなのか、考えてみましょう。
「事務」か「営業」か、というのは非常に難しい選択だと思います。営業職というと、押しが強くアクが強く面の皮が厚い喋りの上手い人という印象があると思いますが、現実は全くその限りではありません。というのも、営業には様々なスタイルがあり、「まぐれ当たり」もあるからです。
営業ができる人のスタイルは千差万別です。
マメで気が利き、顔が広く誰とでもすぐ仲良くなる能力があり、立て板に水のトークをする一般的なイメージに近い「敏腕営業マン」ももちろん存在しますが、真逆のタイプも存在するのです。いい加減で大雑把、交友関係は狭くプライベートは引きこもり、初対面には弱く喋りは鈍重。そういうタイプでも、数字を上げる営業マンは明確に存在します。なんなら、コミュニケーションが下手でオドオドしていて実直であるという理由で数字を挙げる「営業マン」だってザラにいます。想像してみてください、そんな「営業マン」に好感を持ってしまうことってありそうでしょう?
「営業マン」は数字さえ上げれば正義の世界なので、「遅刻」や「サボり」などサラリーマンとしては通常許されないことも、わりと許されてしまうところさえあると言えます。
しかし、「事務ができる人」のスタイルに多様性はありません。
時間にルーズでスケジュール管理が下手で、誰かに頼まれた仕事を忘れてしまうような事務マンは間違いなく優秀ではありません。そして、僕自身の経験に照らして「営業がダメな人が努力で成果を出す」可能性より「事務がダメな人が努力で適応する」方が遥かに難しいと思います。だから、僕のように仕事の安定感は乏しくても、その代わりたまに大当たりを打つという能力さえあれば、営業マンとして現在も生き残っていけるのと思います。
事務は僕にとってまさしく地獄でした。業務適性は一切ありませんでした。しかし、「サラリーマンならデスクワークが良い」という何の根拠も無い志望動機で、僕は金融バックという事務の中でも最も難度の高いものの一つに従事してしまいました。これは、本当に僕自身にとっても、僕を採用した会社にとっても不幸なことだったとしか言いようがありません。
皆様、どうか賢明なる選択をされてください。自己分析はとても大事です。「大学はソツなくこなせたから」という判断は甘いです。どうか、くれぐれも営業への嫌悪感を捨てて熟考されてみてください。あなたの良い旅を僕は心から祈っています。
やっていきましょう。
▼気になるあの企業のリアルを知る、転職サイト「ONE CAREER PLUS」リリース!※こちらは2018年2月に公開された記事の再掲です。
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