※この記事は、経済産業省のウェブマガジン「METI Journal Online」の「キャッシュレスを牽引するクレジットカード業」を転載、一部編集したものです。
日本のキャッシュレス決済比率(キャッシュレス支払手段による年間支払金額÷国の家計最終消費支出)は、民間団体の推計によると2019年に26.8%になりました。2019年10月から2020年6月までは、消費税率引き上げに伴うキャッシュレス消費者還元事業もあり、大幅に上昇しています。
一言でキャッシュレスといっても、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、コード決済など決済手段はさまざまです。
新しい決済手段が台頭する中でも、キャッシュレス全体額の約9割をクレジットカードが占めているといわれています。今回は、キャッシュレスを牽引(けんいん)しているクレジットカード業について統計を見ていきましょう。
クレジットカード業界は、コロナショックを受けても拡大傾向にある
経済産業省が毎月公表している「第3次産業活動指数(※)」でクレジットカード業を見てみると、第3次産業全体の平均や個人向けサービス企業の平均と比べ、右肩上がりのグラフになっていることが分かります。
(※)……第3次産業(非製造業、広義のサービス業)の生産活動を総合的に捉えるための経済指標。ざっくり、景気動向を数値化したものだと考えてください
2020年についてはコロナウイルス感染症の影響などで、前年比−4.9%と大きく低下しているものの、コロナショックや新たなキャッシュレス決済方法の台頭がありながら、クレジットカード業は、ほぼ一貫した上昇傾向であることが分かると思います。
クレジットカードの利用は小売業が好調、利用先の多様化が進む
このように好調なクレジットカード業ですが、まずはどこで利用されているのか、利用相手先の業種の活動量とともに見ていきましょう。
以下のグラフは、「百貨店、総合スーパー」「その他の小売店」「飲食店」「旅館・ホテル」の4業種について、特定サービス産業動態統計調査(以下「特サビ」)のクレジットカード業の業務種類別取扱高(利用金額)と第3次産業活動指数の対応業種を合わせたものです。
クレジットカードの利用について、コロナ禍以前から強い上昇傾向があることから、取扱高(青線)はどのグラフも右肩上がりとなっています。個別に見ていくと「百貨店、総合スーパー」や「その他の小売店」といった小売業は、コロナ禍による緊急事態宣言などの影響を受けながらも、すぐに上昇傾向に戻っています。
一方、第3次産業活動指数の「各種商品小売業(百貨店・総合スーパーに相当)」や「その他小売業(特サビの定義に合わせ、各種商品小売業と自動車小売業を除く小売業)」は低下傾向もしくは横ばいとなっています。
「飲食店」「旅館・ホテル」については、クレジットカード業の相手先産業、当該産業の活動量ともに緊急事態宣言で大きく低下しており、その後も低下基調になってはいるものの、クレジットカード業の相手先産業は、回復後一定の水準を維持しています。
これらの結果から分かるのは、クレジットカードを利用する業種の活動量(景況感)が横ばいもしくは縮小傾向となっていても、クレジットカード業は一定の水準を維持または、上昇傾向となっていること。非接触型の決済手段として、コロナ禍で脚光を浴びたという面もあるでしょう。
次に、クレジットカードの利用先割合の推移を見てみましょう。以下の表は、特サビのクレジットカード業における業務種類別取扱高の割合を5年ごとに比較したものです。
「百貨店、総合スーパー」と「その他の小売店」などの小売業が主力であることは変わらないものの、特掲されない産業の集まりである「その他」(娯楽、運輸、通信、不動産など)が年々シェアを高めていることから、クレジットカードの利用先の多様化が進んでいることが読み取れます。
また、小売業だけで見ても、「その他の小売店」が「百貨店、総合スーパー」の売上割合に迫ってきています。たまに行う高額な買い物での利用だけではなく、身の回り品など、少額で日常的な利用が増えているのかもしれません。
クレジットカードが使える店も増加、特に飲食店が顕著
さて、ここからは実際にクレジットカードが使えるお店の数は増えたのか、加盟店数の推移を見てみましょう。以下の表は、特定サービス産業実態調査と経済構造実態調査におけるクレジットカード業の自社開拓加盟店数から作成したものです。
表を見ると、旅館・ホテルは緩やかに増加していますが、飲食店も7年で約2.5倍伸びており、急速に加盟店数を伸ばしていることが分かります。
飲食店、旅館・ホテルでのクレジットカード加盟店数の増加が、クレジットカード業の好調を下支えしていたものと思われますが、同時に、これらは2020年のコロナショックで急落した業種でもあります。クレジットカード業が今後も今のペースで伸びていくかどうかは、まだ分からないところです。
クレジットカード業を取り巻く環境はどう変わるか?
最後に、クレジットカード業を取り巻く環境をまとめましょう。政府が2019年に「キャッシュレス・ポイント還元事業」、2020年には「マイナポイント事業」を行い、さらにコロナ禍での非接触決済へのニーズの高まりから、キャッシュレス決済は広がりを見せました。
日本のキャッシュレス決済比率は26.8%と、世界的に見るとまだまだ低く、大阪・関西万博(2025年)に向けて決済比率を4割程度、将来的には80%を目指す「キャッシュレス・ビジョン」も掲げられています。また、クレジットカードの利用者が安全・安心に利用できる環境を整備するために「割賦販売法(令和3年4月1日施行)」が改正されました。
それらを背景に、今後もクレジットカード業は拡大していくでしょう。ただし、新たな決済方法の台頭やコロナショックの影響が気になるところ。
私たちの生活に密着したクレジットカード業の今後については、他の決済方法との住み分けや共存、コロナ禍での電子商取引(EC)など、生活様式の変化などのニーズを捉えることがカギになってきそうです。