突然ですが、みなさん「官僚」と聞いて何を思い浮かべますか?
「エリート」「とにかく勉強しないとなれない」などのイメージを持っていませんか?
たしかに、過去にはそんな時代もあったかもしれません。しかし、現在では試験が多様化し、学生が気軽に受験できるような制度が整えられています。
2012年に新設された教養区分試験もその一つ。
春に行われる通常の試験とは異なり、秋に行われます。
通常の試験と比べ科目の数が少なく、民間企業を主に志望している人でも受験しやすい試験です。
霞が関や官僚就活のイメージをアップデートする特集、「UPDATE 霞が関」。
3本目である今回は、国家総合職の試験の中でも教養区分試験(秋試験)に絞り、試験内容や民間就活との両立スケジュールを解説します。
教養区分試験は、例年7月末から申込が始まります。
無料で受けられるので、ぜひチャレンジしてみてください!
<目次>
●国家総合職の採用プロセス
●教養区分試験の概要
・1次試験編
・2次試験編
・英語資格加点編
●官庁訪問の攻略法
・官庁訪問の概要、クール制について
・官庁訪問の実際
・官庁訪問対策
●教養区分×民間就活併願者の理想スケジュール
国家総合職の採用に関する詳しい情報については、以下をご覧ください!
・人事院ホームページ(HP)「国家公務員試験ガイド 2022 総合職」
国家総合職の採用プロセス
民間企業と違って、国家総合職の採用では面接などの選考開始前に試験に合格する必要があります。
そのため、採用プロセスが【国家総合職試験の合格→官庁訪問→志望省庁の内定獲得】と進んでいきます。
間に入っている「官庁訪問」という言葉は耳慣れないものだと思いますが、簡単にいえば企業選考における【エントリーシート(ES)提出→各種選考(面接やグループディスカッション(GD)など)→内定獲得】にあたるものです。
そして、この官庁訪問には、国家総合職の試験に合格しないと参加できません。
つまり、「国家総合職試験の合格」は、「官庁訪問に参加するための資格」と考えると分かりやすいでしょう。
そんな国家総合職の試験には、春に行われる通常の試験(春の試験)と秋に行われる試験(教養区分試験)があります。
この2つの試験の最大の違いは「科目」の数。秋試験の方が科目が少ないのです。具体的にいえば、教養区分試験には「専門科目」の試験がありません。
専門科目とは、文系向けの春の試験における法律科目(憲法・民法・行政法など)、経済科目(経済理論・経済学・財政学など)、政治国際科目(政治学・国際関係学など)を指します。
この専門科目では、大学・大学院レベルの知識が求められるため、春の試験の受験者はこの専門科目にほとんどの勉強時間を費やすことになります。
一般的に、春の試験は教養区分と比べて対策に何十倍も時間がかかるといわれています。そのため、民間就活と併願する方には教養区分の受験がおすすめです。
この記事では、【大卒程度・教養区分】に絞って情報をお届けします。
春の試験の受験も考えている方は、人事院HP【国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)(教養区分を除く)】をご覧ください!
教養区分試験の概要
教養区分試験は、毎年秋に行われる試験です。
21歳になる年(主に学部3年生の年)の秋から受験でき、主に学部生向けの試験です(院生向けの試験については人事院HPをご覧ください)。
しかし、その手軽さを理由に受験人数も多く、春の試験と比べて倍率が高くなっています。民間企業よりも国家総合職の志望度が高い人は、より確実に試験に合格するために、春の試験の受験も検討しましょう。
以下は、2023年度に行われる教養区分試験のスケジュールです。
※出典:人事院 国家公務員試験採用情報NAVI「国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)教養区分」
試験対策 ▼1次試験編:総合論文試験、基礎能力試験(1)(2)
教養区分の1次試験では、4時間で2題の論文を書く「総合論文試験」と、多肢選択式の「基礎能力試験(1)(2)」が行われます。
1次試験では、基礎能力試験のみが合否判定に用いられます。総合論文試験の点数は、2次試験終了後、1次試験の点数を含めた最終の合計点を出すときに、2次試験の点数と一緒に反映されます。
総合論文試験
総合論文試験では、「政策の企画立案の基礎となる教養に関する論題」が1問と、「具体的な政策課題に関する論題」1問を論述します。
人事院のHP(国家公務員試験 採用情報NAVI)には、「移民が国家や社会に与える影響」、「AI研究を進める上での課題と対策」の2つの試験問題例が掲載されている(※1)ので、これを参考に、論文を書く練習をしてみましょう。
2問で4時間と思うと時間が余りそうだと感じますが、1問につき1,200〜1,600文字書く必要があるため、時間配分を考えて書かないと時間がギリギリになりがちです。
1問にかける時間を1時間45分程度と想定し、最後の見直し時間(バッファ)として30分程度残しておくような時間配分をすると良いでしょう。
論文を書き始めるときには、構成から考えるようにします。
いきなり文章から書き始めると、方向性が見えなくなったり、字数が合わなくなったりする可能性があるからです。
また、ESと同じように、結論ファーストの文章構成を心がけましょう。
以下のような段落構成に当てはめると書きやすくておすすめです。資料の内容を文中に含めることも忘れないようにしてください。
<総合論文の構成例>
(1)導入~結論
(2)施策1
(3)施策2
(4)施策3
(5)まとめ
書き始めてからは、「一文一趣旨」の鉄則を守りましょう。1文80字以内で、できるだけ簡潔に書くと良いです。
総合論文試験は、とにかく「簡潔にわかりやすく」、「問題文で聞かれていることに忠実に答える」ことが重要です。10点満点中5点〜6点の人が多い試験ですが、以上の2点を守れば、10点満点も夢ではないでしょう。
(※1)参考:人事院「試験問題例 総合職(大卒)教養区分」
基礎能力試験(1)(2)
基礎能力試験は1部(知能分野)と2部(知識分野)に分かれています。
人事院の発表している問題例はこちらです。
1部(知能分野)では文章理解(現代文・英文)8問、数的処理16問の計24問に回答する必要があります。
文章理解や2部の知識分野であまり点数に差がつかないため、「数的処理を制する者は教養区分を制す」ともいわれます。数的処理が教養区分試験最大の関門であり、山場であるといえるでしょう。
数的処理とは、SPIの非言語を難しくしたような問題が出題される科目です。判断推理、数的推理、資料解釈、平面・空間図形などが主な出題内容です。
中学・高校時代に数学が得意だった人、民間企業のWebテストで数的処理が得意だと感じている人は点数を獲得しやすい科目だと考えられます。
一度市販の参考書で対策してみてください。おすすめの問題集はこちらです。
・公務員試験 新スーパー過去問ゼミ6 判断推理 (公務員試験新スーパー過去問ゼミ)
2部(知識分野)では、時事問題と、自然科学(物理・化学・生物・地学・数学)と人文科学(世界史・日本史・文化・芸術・思想・地理)、社会科学(法律・経済・政治)が約10問ずつの計30問が出題されます。
知識分野は非常に範囲が広く、その割には問題数が少ない、コストパフォーマンスの悪い分野といえます。大学入試の際に選択した科目や大学で専攻している分野の知識を深め、初学の分野は深追いしすぎない勉強法が良いでしょう。
基礎能力試験(春の試験の教養科目※内容同じ 含め)の過去問は、以下の問題集に掲載されています。
・国家総合職 教養試験 過去問500 2023年度 (公務員試験 合格の500シリーズ1)
試験対策 ▼2次試験編:企画提案試験、政策課題討議試験、人物試験
2次試験では、企画提案試験、政策課題討議試験、人物試験が行われます。
2021年度までは平日に開催されていましたが、2022年度からは土日の開催となりました。
2次試験は倍率の低さが大きな特徴です。2021年度試験では、1次試験合格者329人に対し、2次試験合格(最終合格)者は214人。おおよそ3人に2人が合格する倍率です(※2)。1次試験が大きな関門であることは間違いないでしょう。
しかし、企画提案試験など、試験前の準備が必要な試験もあります。念入りに準備をして試験に臨むと安心できるでしょう。
(※2)参考:人事院「国家公務員採用総合職試験(大卒程度)実施状況」
政策課題討議試験(グループディスカッション)
政策課題討議試験は、GDの試験です。
6人1組でグループが構成され、レジュメ作成(20分)→個別発表(約3分/人)→グループ討議(約45分)の流れで行われます。
民間企業の選考などを通じて慣れることができるため、民間企業併願者であれば特別な対策をする必要があまりない選考ステップといえるでしょう。
あまりGDに慣れていない方は、何度か練習をすることで、自分はどの立ち位置(リーダー、タイムキーパー、新たな視点の提供者など)が向いているかを見つけると良いです。
本番、建設的な議論にならない場合は、論理のすり替えが行われていないか、方向性がずれてきていないかなどを考えましょう。
企画提案試験
小論文の作成と、そのプレゼンテーションを行う試験。問題例はこちらです。
企画提案試験では、1次試験の合格発表と同時に、問題に関連する資料(例年どこかの省庁の白書)が与えられ、試験日までに目を通す必要があります。
当日ははじめに政策課題と資料が与えられ、午前に小論文(2時間)で課題の解決方法について論述します。その後試験官に対して小論文の内容をプレゼンテーション(5分)し、質疑応答(20分)が行われます。
小論文とプレゼンテーションは、白書の資料内容を考慮した背景・現状・課題などを掲げ、それに対する具体策を提示するような構成にしましょう。具体策は、現実的なものをあげることが重要です。予算や人員など、リソース面での実現可能性を考え、政策立案能力の高さをアピールしましょう。
人物試験(面接)
人物試験では、面接が行われます。
面接カードと呼ばれるエントリーシートを試験当日に提出し、その内容に沿って質問されます。民間企業と比べ、表層的な質問が多く、あまり深掘りはされない傾向があります。民間就活で自己分析や面接練習を行っている人は、それらの経験をそのまま活用できるでしょう。
試験対策 ▼英語資格加点編
国家総合職の試験には、保持している英語資格のスコアを提出することで、加点される制度があります。
詳しくは人事院HPをご覧ください。
加算得点は以下の表の通りです。
※出典:人事院「国家公務員採用総合職試験における英語試験の活用」
試験実施年度の4月1日から遡(さかのぼ)って、5年前以後のものが対象です。また、2次試験の際に、スコアの証明書を持参・提出する必要があります。
特にTOEICなどは、民間企業の選考に向けて受験した経験のある就活生が多いと思います。活用しない手はないでしょう。
官庁訪問の攻略法
官庁訪問とは、試験に最終合格した後、志望省庁から採用内定を得るための期間のことをいいます。
民間就活でいうところの【ES提出から内定獲得まで】の選考プロセスが、6月末から7月半ばにかけた約2週間、決められた日程に従って全省庁で行われます。
学生が志望の省庁に足を運び、実際に省庁内で面接などの選考を受けることから、「◯◯省庁の選考を受ける」ことを「◯◯省庁を訪問する」と呼びます。しかし、新型コロナウイルス感染拡大後は、オンラインでの選考を行う省庁も増えました。
官庁訪問のシステムは非常に複雑です。この記事だけでは不明瞭だと感じる場合は、人事院の「国家公務員試験 採用情報NAVI(採用までの流れ)」をご覧ください。
官庁訪問の概要・クール制について
国家総合職の就職においては、最大で3省庁までしか選考を受けることができません。
官庁訪問は5つの時期(クール)に分かれていて、1日に1つの省庁しか選考を受けられず、クールが進むごとに選考を受けられる省庁が絞られていく仕組みになっています。
各クールの期間は、第1クールが3日間、第2クールが3日間、第3クールが2日間、第4・5クールが1日です。内定をもらうためには各クールで選考を受ける、つまり全5回の選考を受けることになります。
以下は、2021年度の官庁訪問日程です。架空の例ではありますが、厚生労働省の内定を獲得し、他に人事院と内閣府を訪問した人のスケジュールは以下の通りです。
第1クールで訪問しなかった省庁は、第2クール以降訪問できません。そのため、第1クールにどの省庁を選び、どの順番で回るかが非常に重要になってきます。
選考では、1日ごと(1省庁ごと)に、その省庁の次のクールに進むことができるかどうか(合否)が言い渡されます。
例えば、第1クールの1日目、厚生労働省で選考突破が言い渡された場合、厚生労働省の第2クールに進むことができます。しかし、第1クールの2日目に人事院で不合格が伝えられた場合、第2クールには人事院を訪問できません。第3クール以降、枠よりも選考を通過している省庁が多い場合は、選考を受け続ける省庁を自分で決めることになります。
一般的には、「1日目に第一志望省庁訪問→2日目に第二志望省庁訪問→3日目に第三志望省庁訪問」のように、志望度の高い順に省庁を訪問します。
省庁側としても、早い日程で訪問してきた学生を「志望度が高い」とみなすので、省庁間の通過倍率や難易度の違いを考慮し、戦略的に訪問順位を決定する学生も多くいます。 志望順位が2、3番であっても、人気が高い省庁であれば1日目に訪問するなどです。
それぞれのクールの倍率や官庁訪問中の選考内容などは、省庁によって全く異なります。志望省庁のイベントに参加するなどして、情報を集めると良いでしょう。
官庁訪問の実際
官庁訪問期間中は、人事課による面接や原課面接(人事課ではない職員による面接:逆質問中心)、GDなど、多くの選考が行われます。
毎日朝早くから開始し、人によっては終了が24時を回ることもあります。
これが約2週間続くため、事前に体力をつけておく、休日にはしっかり休むなどの対策が必要でしょう。
官庁訪問は、2週間の「生き残りをかけたサバイバル」のようなものです。
多くの選考をクリアし、最後まで勝ち残った者のみが、内々定という勝利を手にするのです。万全の対策をして臨みましょう。
官庁訪問対策
官庁訪問の対策を始める時期は、人それぞれです。大学2年の頃から説明会に参加している人もいれば、1、2回のみの説明会参加で内定を獲得する人もいます。
説明会への参加だけが対策ではありません。多くの志望者が、省庁志望の友達と面接練習や勉強会を行っています。省庁の学生向けイベントや、大学のコミュニティで知り合うことが多いようです。
各省庁では、連日学生向けのイベントを行っています。ほとんどのイベントには事前知識なしで参加できるので、各省庁の雰囲気を知るためにも、時間のあるときには参加することをおすすめします。
公務員予備校を利用している志望者も多いです。TAC・Wセミナーなど、内定者がアドバイザーとして勤務し、カウンセリングやイベントを行っている予備校もあります。志望省庁の内定者に相談してみると良いでしょう。
省庁内定者や志望者が運営している学生団体でも、イベントが行われています。
例えば、関西の内定者が有志で運営している京僚会や、「公務員就活における情報格差をなくす」をテーマに志望者・内定者が運営する×KASUMIなどです。公務員試験支援の学生団体がある大学は多いので、チェックしてみてください!
教養区分×民間就活併願者の理想スケジュール
教養区分の試験は10月に開始され、12月に合格発表が行われます。
そのため12月以降、官庁訪問までの期間、民間就活に目一杯時間を割くことができます。
理想的なタイムスケジュールは以下の通りです。
次回はいよいよ、教養区分試験で合格し、経済産業省に内定した2022年卒学生にインタビューを行います。ぜひご覧ください!
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