※こちらは2021年3月に公開された記事の再掲です。
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗元会長の発言を皮切りに、男女差別に関する問題が次から次へと浮き出てきている。差別と言ったら大それた言葉に感じるが、要するに性別を理由にしてつらい思いをしている人がいるということだ。そして、それは就職活動も例外ではない。
以前と比べて、あからさまなセクハラをされることは減っていると信じたい。しかし、就活になると、女を理由にモヤモヤする場面に遭遇することがまだまだある(もちろんつらいのは女子だけじゃないが)。
実際に私も、こんな場面に遭遇したことがある。
女子就活生「御社の男女比はどのような内訳ですか?」
人事 「どれくらいだと思う?」
女子就活生「男:女=8:2くらいですか?」
人事 「いやいや、5:5くらいだよ。女子が少ない方がモテると思った?」
意味不明だ。モテるために会社に入るわけではない。何だと思っているんだ。
就活で遭遇するモヤモヤの問題点は、「これって私が気にしなければいいだけかな?」や、「やっぱり受かりたい。受からないと将来が不安だし、今我慢すれば済む話」とモヤモヤを飲み込んでしまうことだ。
もしかしたら、気づかないうちにジェンダーバイアスを受け入れてしまっていたのかも。そこで、私の周囲の女子就活生たちに、実際にそんな性別による理不尽さを感じた経験があるか、話を聞いてみた。
<目次>
●服装自由でも。足が痛くても。私たちを縛りつける「パンプスの呪い」
●「女の子だけど大丈夫?」女性人事に言われた衝撃
●一般職は「楽な仕事」で、総合職は「バリキャリ」? 職種バイアスが苦しい
●おわりに
服装自由でも。足が痛くても。私たちを縛りつける「パンプスの呪い」
はじめにお届けするのは、パンプスに関するモヤモヤ。
女子学生の就職活動の制服は、膝上のタイトスカート、ストッキングにパンプス。最近は、「服装自由」の表記も増えてきた。しかし、実態はどうなのだろうか……?
説明会の日にいつものようにストッキングとパンプスを履いていきました。説明会が終わって、お手洗いに行ったとき足に違和感があって、見ると両足首が靴ずれで血だらけで……笑
──それは大変でしたね……そのあとはどうされたんですか?
パンストタイプではなく、靴下タイプのストッキングを履いていたのが不幸中の幸いで、足首に絆創膏(ばんそうこう)を貼って応急処置をしました。そのあとにバイトがあったし、靴を脱ぎ捨てて帰るわけにもいかないので、足を引きずりながら歩きました。
──ヒールがない靴を履いたり、靴下を履いたりすることは考えなかったですか?
説明会の詳細には、服装自由と書いてあったものの、おそらく多くの人はリクルートスーツで来ると思うので、自分だけ違うのは気になって勇気が出なかったです。パンプスを履くのは嫌ではないけれど、男の子が革靴、靴下を履いているのを見ると痛くなさそうでいいな……とは思っていました。
ちなみに、パンストタイプのストッキングを履いていたら、絆創膏を貼るのは至難の業だ。ストッキングの上から絆創膏を貼るわけにもいかないし、ストッキングを脱いでから絆創膏を貼ろうにも、トイレに着替え台が設置されているとも限らない。
なぜそんな痛みを我慢してまで、女子就活生はヒールのあるパンプスをはくのか? 理由は「大体の人がそうだから」。実際、コロナ以前の説明会や面接に行った際、ヒールのない靴を履いた女子就活生はほとんど見かけなかった。
「強制されていないんだから、パンプスを履かなければいい」という人もいるだろう。しかし、就職活動中は、1社も内定をもらえなかったらどうしようという不安と戦い続けなければいけない。そのような状況で、「当たり前」と違う行動が悪目立ちして内定の可能性が下がりはしないかと、就活生たちはきっと怯(おび)えている。
「足は痛いけれど、これで落ちる可能性が減るならマシ」と、歩きやすさより「ありもしないルールに従うこと」を選択してしまうのだ。
「女の子だけど大丈夫?」女性人事に言われた衝撃
続いては、ある面接でのエピソードをお届けする。「圧迫面接」という言葉があるように、面接官が答えにくい質問をしたり、高圧的な態度をとったりする会社も少なくない。
証券会社の面接で「大変な仕事だよ、女の子だけど大丈夫なの?」と聞かれました。私は覚悟を問われていると受け取りましたが、人によっては女性差別と感じるのでは? と思いました。
──なるほど、それは少し引っかかりますね。男性人事の方に言われたんですか?
いいえ、これは役職がかなり上の女性人事の方に言われました。「心身ともにスタミナが必要だよ」とも言われて。実際、証券営業はたくさん歩いてお客様を訪問するなど体力的に大変そうなので、分からなくはないのですが「味方じゃないのかな」と思ったり……。
実際、就活をしていて「女性差別」とも取れる言葉をかけられることは多い。例えば、「女子で〇〇業界志望? タフだね!」「最近は女性活躍が盛り上がっているから、今年は女の子でも△△業界は受かりやすそうだね」などなど。
差別的な発言は、年上男性に限らず、誰もが無意識にしてしまっている可能性がある。相手を気遣ったつもり、ということもあるだろう。でもその仕事を希望している身からすれば「女だけど」「女だから」と言われると、道を閉ざされたような絶望すら感じる。
証券会社の仕事が大変なことも、〇〇業界がプライベートな時間が取りにくいことも、男性ばかりだった△△業界が女子に門戸を開き始めたことも知っている。でも、何かをやりたいときに、女か男かって関係があるのだろうか……?
悪気なくかけられる性差別的発言に、モヤモヤを感じたことがあるのはきっと私だけではないはずだ。
一般職は「楽な仕事」で、総合職は「バリキャリ」? 職種バイアスが苦しい
最後に紹介するのは、職種バイアスへの違和感である。私たちはなんとなく、転勤がない事務職は女性が多い、総合職の女性は「バリキャリ」などというイメージにとらわれてはいないだろうか? 友人同士の会話の中にも、職種への偏見が垣間見えることがある。
私は一般職を希望しましたが、友人たちと就活トークをすると、一般職女子は、「楽そう」「早めに結婚しそう」などと言われ、少し軽視されているような感じがします。私なりに選んだ理由があるのに……。
また、総合職を選んだ女性にも職種バイアスは向けられる。
多忙な業界を選んだり、会社で出世したいと友人に話したりすると、「バリキャリだね」「意識高くてすごいね」と言われてモヤモヤします。男性だったらそういうことは言われないのかな……と。普通に働こうと思っているだけなのに持ち上げられると、居心地の悪さを感じます。
勝手なイメージで発言すると、無意識のうちに相手に固定観念を押し付けてしまう可能性がある。
かくいう私も、一般職を選んだ友人に「結婚を意識して一般職にしたの?」と聞いてしまった過去がある。友人の答えは「結婚は前提にしていないよ」であった。自分が持つ固定観念が大切な人たちを嫌な気持ちにさせているかもしれないことに衝撃を受け、イメージではなく相手がその道を選んだ理由をきちんと聞いた上で話そうと思った瞬間だった。
おわりに
他にも、面接で「背が高いのいいね。自分でどう思ってるの?」と容姿のことを聞かれたという話や、女性の役員比率が全然変わっていないのに、「女性のキャリアを意識してます」とアピールする会社に疑問を感じる、など、これから社会に出る私たちはいろいろなモヤモヤを抱えている。
説明会の数時間だけ、面接の数十分だけ我慢すれば、やり過ごすことはできる。しかし、どこかで気持ちは晴れないまま。そして、誰かが声を上げない限りこのモヤモヤは再生産されていく。
このモヤモヤを解消し、成仏させるにはどうすればいいのか。社会経験豊富なワンキャリのライターさんたちに話を聞いてみることにした。近日公開予定だ。
▼くるぶしさかなの記事はこちら
・なぜ、私はあのときセクハラ人事に言い返さなかったのだろう
・内定と性差別を「天秤にかける」私たち──モヤモヤを受け入れる女子就活生のホンネ
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